SENSA

2023.04.26

butohes「to breathe」──草花が咲くように、静かに雨が降るように。自然物のポストロック

butohes「to breathe」──草花が咲くように、静かに雨が降るように。自然物のポストロック

 一般にポストロックと聞けば、顕微鏡を覗き込むような精度でアンサンブルを組み上げ、同時に、宇宙の彼方に到達するくらい壮大な轟音を放つバンド想像してしまう。インストゥルメンタルを選ぶ人たちも多く、せせこましい身の上話とは無縁だから、そのぶん想像力を果てなく広げていけるのだろう。

 2019年結成のbutohes(ブトース)。バンド名は「暗黒舞踏」から来ており、前衛的なものが大好きなひねくれ集団かと思ったのだが、なかなかどうして、その音は日常に柔らかくフィットする。たっぷりとディレイをかけた音は確実にポストロック/アンビエント/シューゲイザーの影響下。ただしそれは神経質にミクロを語ったりいきなりマクロに飛んだりしない。空き地に草花が咲くように、南風がふわっと吹いたり静かに雨が降ったりするように、ただそこにある自然物として鳴っている印象だ。

 大きいのはヴォーカルの存在だろう。抑制の効いた唱法、耳を澄まさないと内容が聞き取れないほど音の中に溶け込んだMichiro(Vo/Gt)の歌声が、この音に「人の営み」というリアリティを与えている。喋り、笑い、黙り、思考し、他者に何かを伝えようとする小さな声。メロディが大袈裟ではないのもよくて、ごく淡々と進む旋律はかつてのくるりやスーパーカーを彷彿とさせる。

 Michiroはまたジョニー・マーの奏法にも強く影響を受けているらしく、精密なバッキングやアコギ使いはザ・スミス印。叙情派ニューウェイヴ、J-ロックなど、過去をたっぷり再解釈しながら、ロックバンド的な主張がかなり薄いところも面白い。ロックの象徴たるエレキギターは、彼らの大胆な音響処理により、何か遠くに霞むもの、風景の中に溶け込む美しいものとして表現されるのだ。

 生粋のライヴバンドというより、機材を駆使して理想の響きを追求するサウンドデザイン・チームに近いのかもしれない。5分半に及ぶ「breathes」の音の良さ、寄せては引いていく揺らぎの心地よさはちょっと言葉にならないものがある。しいて言うのなら、海面にぽたりと落ちた雨粒の気分。大きなものに飲み込まれ、自分と他者の境界線も溶けていくようなイメージ。水は、不思議と、冷たくはないのである。

文:石井恵梨子



RELEASE INFORMATION

butohes_EP_jacket.jpg
butohes「to breathe」
2023年4月26日(水)
Format:Digital
Label:FRIENDSHIP.

Track:
1. Height
2. Alba
3. Walkalone
4. breathes
5. Ss
6. eephus

試聴はこちら


LIVE INFORMATION

Release Party of「to breathe」
butohes_ライブフライヤー_1000_20230329.jpg
2023年5月3日(水祝)
下北沢BASEMENTBAR
OPEN 18:30
START 19:00

ACT)
puleflor
Cwondo
Clematis
butohes

TICKET¥2,400
学割¥1,400(+1D ¥600)
予約フォームはこちら


LINK
@butohes_japan
FRIENDSHIP.

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