SENSA

2023.03.29

DENIMS、全国ツアー完走!温かくもタフになったグルーヴで痛快にファイナルを飾った恵比寿LIQUIDROOM公演

DENIMS、全国ツアー完走!温かくもタフになったグルーヴで痛快にファイナルを飾った恵比寿LIQUIDROOM公演

DENIMSが昨年12月2日の神戸・太陽と虎からスタートさせた全国13箇所を廻るツアー「Sing a Simple Song TOUR 2022-2023」を3月25日、恵比寿LIQUIDROOMで完走した。新作『ugly beauty』を携えたツアーである今回。釜中健伍(Gt/Vo)がMCでも話していたが、醜さと美しさという両極端なものは誰しもの中にあり、それは成熟した大人と子供にも例えられるし、そうした矛盾を受け入れて進んで行くのが人間の自然なありようだと思う、といった趣旨だった。まさにその心象や具体的な情景を描き、音楽的にも一見、矛盾と思えることをバンドという器の中で混合してきたDENIMSらしい意思表示だ。ちなみに釜中はこのタイトルをセロニアス・モンクの楽曲から拝借したそうだが、この曲が収録されているアルバム『アンダーグラウンド』のジャケットでモンクはライフルを肩にかけ、人質をとってピアノを弾いている。偏屈と言われた彼らしい比喩である。DENIMSにはそんな偏屈さは感じないけれど、誰だって100%の正しさに基づいて行動している訳じゃない。日々、どっちの道に行こうか悩むし、最も近くにいる人に素直になれたらまあ万々歳だ。そんな我々の日々を温かくもタフになったグルーヴで押し上げてくれた約2時間だったのだ。

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スライ&ザ・ファミリーストーンの「Sing A Simple Song」に乗って登場した4人が鳴らした1音目に、ロックバンドっぽいギターやベースの圧と抜けのいいアンサンブルを同時に感じて、「ひかり」がスタート。江山真司(Dr)の乾いた音作りが風通しの良さを生んでいる。そして釜中の歌に、夜明けが来ればなんとか進んで行ける気分を思い出す。シームレスに岡本悠亮(Gt)のリフが引っ張る「DAME NA OTONA」ではサビ後の"OH OH OH"で早くもシンガロングが起きる。さらにトーキングボーカルとツインギターの抜き差しがシュアなキック&スネアに乗る「syotyu-mimai」が、フロアのグルーヴを加速させてゆく。

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ファイナルを大好きなリキッドルームで開催できたことを喜ぶ釜中のMCから、アルバムのカラーを代表する「Life Is Good」のイントロが鳴り、ビビッドな反応が起きる。音源以上に岡本のカッティングやオブリが前面に出ている印象だ。続いて音源に忠実である以上に大きめのアンプのノイズを再現して「Too dry to die」へ繋ぐ。ブリットポップ的なシニカルさがチラチラ覗く歌詞もライブでのエネルギーに満ちた演奏で、パンクの匂いすらするのが面白い。

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キック&スネアにエフェクトがかけられコラージュっぽい聴感を醸すイントロから、脱力したコーラスが乗る「ゆるりゆらり」は後ろノリに磨きがかかってDENIMS流のネオソウル感が立ち上がる。話すように乗せられる釜中の平熱のボーカルもいい。新作の間に過去曲の中からパズルのピースがハマるような選曲で展開する流れが心地いい。そして大きく飛躍するわけではないけれど、日々の一進一退や時間経過を感じられるのもすごくいい。軽いソロ回しのスキットの間に釜中がキーボードに移動、「way back」の穏やかなポップソウル感が岡本のちょっと存在感の強いオブリがこのバンドのオリジナリティを際立たせる。続いてエレピのマイナーコードのリフが時間を夜にワープさせる「Midnight Drive」。ロックバンドのソウル/ファンクと言える、楽器の存在感が強いアンサンブルだが、DENIMSの場合、その方がオーディエンスの前のめり感が増すようだ。ここまでの前半で思い思いに身体を動かして、『ugly beauty』の世界観を生で吸収・還元し、会場全体が一つの意思を持つクリーチャーと化してきた印象だ。テンプレのリアクションがない分、曲が進むごとに肉体性が高まる様子がリアルに感じられる。

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MCではツアーで各地を廻って、バンドは今、音楽的にムキムキで、打ち上げでたくさんの皮下脂肪も蓄えてきたと岡本。発声がOKになり、ずっと耐えてきた心が解放されつつある今、それを繋いでいきたいと釜中が、「ツアー中に出した曲です」と、「春告」の曲振りをすると大きな歓声が上がり、柔らかいスカビートのバックビートに、まさに春風のような歌メロが乗ると、一気に会場の季節が変わるようだ。ホーンは存在していないのに、ギターのロングトーンが空耳でそんなふうに聴こえるのも不思議。コーデが決まらなくても、あなたに会うことそのものが一番大事だし、嬉しいーーかっこつかなくても安心してここに居られる、それがまさに今この場所なのだと思える優しさがDENIMSのライブにはある。グッと季節が春になった後はひねりの効いたリフ、岡本のボーカルで届ける「Story of the Mountain side」。ちょっとBlurを思わせ、多幸感の後には少しの皮肉とシュールさを持ってくるあたり、音楽的なレンジの広さだけじゃなく、感情に揺れを起こす作用がライブにも仕込まれているのだ。続いては各地でご当地ソングと称して、その日限りの1曲を投入している旨を説明。東京には彼らの節目のナンバー「さよなら、おまちかね」をチョイス。スウィングジャズ・テイストに乗る、自分の気持ちに正直な歌。自信満々じゃないけど、もうここにいたくない、次に行ったる、そんな気分がステップを踏ませる。

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釜中は東京で「さよなら、おまちかね」を演奏できて良かったと言い、続いては「恋愛の歌のつもりで作ったけど、君と僕、今日来てくれた人の歌だと思う」と、「おたがいさま」のイントロが鳴ると歓声が上がる。シンプルな思いの吐露だが、アウトロでギターがオーケストレーションのような大きな情景を描き、フロアから起こるシンガロングも飲み込んで、大きな思いの塊が出来上がっていた。そのアウトロから演奏が続く中、釜中が「今回のツアーで実施してきた"ゴトウチ・D"企画には各地でたくさんの応募があった」と知らせる。そしてこの日はなんと二人の"D"が登場すると告げると、勘のいいファンが歓喜の声をあげる。一人目として呼び込まれたのは猫戦の原田美桜だ。先日、サニーデイ・サービスの「桜super love」のカバーを曽我部恵一が主宰するROSE RECORDSからリリースしたバンドのボーカリストである彼女は透明感の中にしっかり芯のある声で、「ふたり」に明確な色を差す。大歓迎を受けてのデュエットでこの日の"ふたり"が立体的に鳴らされたのだった。美桜の登場でさらに熱気を帯びたフロアに、新作でも随一のアグレッシヴなナンバー「RAGE」を投下。江山のポストパンクなビートに釜中の拡声器エフェクトボイスが乗り、オルタナ×マンチェな音像がカオスを呈していく。こういうところがDENIMSをDENIMSたらしめていると言えるんじゃないだろうか。

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一転、オーセンティックな「AIWO」で怒りの熱が冷まされる。岡本と釜中のツインギターもいい感じだ。テンポアップしてエモーションが加速するアレンジもいい。さらに歩くテンポの土井徳人のベースラインが映える「Goodbye Boredom」というライブ定番曲へ繋いでいく。テンポがバイテンになるとクラップも大きくなり、会場ごと"退屈なんて吹き飛ばせ"と檄を飛ばしているムードに。痛快である。

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丁寧に演奏を重ねて今のDENIMSそのものを見せてきた時間も残り少なくなったところで、釜中が冒頭に書いたように新作の意図を説明。矛盾を受け入れて前進できる手応えを感じたからこそなのだろう。自主マネジメントとして独立し、「今のDENIMSの一番いいところを更新していきます」と明言したのだ。その流れで披露した「LAST DANCE」の親密で平熱のグルーヴの中で歌われる"みちしるべはこの手の中にある"というフレーズのリアルなことと言ったら。続く本編ラストの「そばにいてほしい」も、ラブソングだがファンへのシンプルなメッセージだと、この流れですんなりと飲み込めた。堂々たるハチロクに乗る大きなバラード。バンドからのメッセージではあるけれど、受け手である自分も焦らず歩いていけそうな心持ちになった。いやほんとに稀有なスタンスと独自のサウンドを築き上げたバンドだなと思う。

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アンコールでは新作のタイトルチューンである「ugly beauty」をはじめ、良質のピアノポップである「I'm」と、粋なアレンジが光るナンバーを続ける。が、それではファイナルは終われないといったムードで、この日二人目のD、まさに正真正銘のDである、アユニ・D(BiSH / PEDRO)が呼び込まれ、やんやの大喝采。レコーディングもバンドとは別録りだったので、釜中以外のメンバーがアユニ・Dの生の歌声を通して聴くのはこのステージが初めてなのだという。

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彼女が入ることでパッと温度も景色も変わる声の力を堪能できた。お互いのアーティスト性を認め合うナイスなコラボはDENIMSのポテンシャルを明らかに拡張したと思う。アユニ・Dを温かく迎えたフロアに、ラストはジャンプブルース「わかってるでしょ」を放ち、痛快にファイナルを飾ったのだった。

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文:石角友香
撮影:Ryohei Nakayama

『Sing a Simple Song TOUR 2022-2023』@恵比寿LIQUIDROOM SETLIST



RELEASE INFORMATION

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DENIMS「春告」
2023年3月8日(水)
Format:Digital
Label:OSAMI studio.

Track:
1.春告

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オフィシャルサイト
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