SENSA

2023.03.15

SADFRANK「gel」──想像の遥か先へ。SADFRANK驚愕のファースト・アルバム

SADFRANK「gel」──想像の遥か先へ。SADFRANK驚愕のファースト・アルバム

 NOT WONK加藤修平のソロ音源は、2020年、エディット・ピアフ「愛の讃歌」カバーから始まっている。当時ライブではキャロル・キングや松田聖子のカバーもやっていたので、なるほど、たまにはバンドから離れて思うまま過去の名曲たちと戯れてみたいのか。そういう個人趣味なのだと最初は思っていた。

 違うとわかったのは翌年で、本人から「NOT WONKでやっていることが英語じゃ説明不足になってきた。ソロは日本語で歌う」「やるなら宅録ではなく、ちゃんと作りたい」との話を聞いた。つまりは、タイムレスな日本語の名曲を作る。加藤オリジナルの大衆歌謡を作っていくことが、このプロジェクトの目的なのだと考えを改めた。

 びっくりするほど間違っていた。先行シングル「offshore」がジャズベースのインストであるように、アルバム『gel』の9曲は古典的ポップスとはまったく異なる装いで登場する。しいて言うのならアンビエント/ソウル/ジャズ/クラシックなどでコラージュした、ひそやかな歌もの。ただし、並べるジャンルの数だけでは、本作から感じられる気持ちよさと得体の知れなさが全然語れない。そのことが一番重要だと思う。

 石若駿(Dr)、本村拓磨(Ba)、香田悠真(Key)らメンバーに声をかけたのは加藤自身。弾き語りで作った歌ものを原型とし、メンバーと再解釈することでこの結果になったそうだ。いや、待って。それはどんなブラックボックスだ? いくら聴いても私には、その「再解釈」で何が起きたのかがわからない。エロティックにタメがちな加藤の唱法、ビブラートの後に生まれる余韻の深さが、メンバーの手腕、あるいはロックバンドに囚われない自由により、これだけの飛躍を見せたということか。

 心地よさと落ち着かなさ。慣れ親しんだ優しさと、見たこともない胸騒ぎ。伝統的な品格と未来を予見する前衛が、ごく自然に溶け合っている。丁寧に音を重ねる職人技術と、緻密な設計図をいきなり放棄する直感が、そのままシームレスに曲になっていく。突然どんな展開かと驚くこともあるが、置いてけぼりになる難解さではない。深淵でありつつ、ごく身近な体温は常に感じられる。

 そして歌だけを追えば、「I Warned You」や「Quai」の甘いメロディは、加藤がよくカバーしている松田聖子「SWEET MEMORIES」みたいな歌謡曲のニュアンスを確かに持っているのだ。その意味で、冒頭に書いた私の勘違いはまったくの嘘でもなかった。これが、パンクシーンの鋭才・加藤の手によるオリジナル歌謡。過去に倣うのではなくその先を見に行くための、日本語のポップスだ。

文:石井恵梨子



RELEASE INFORMATION

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SADFRANK「gel」
2023年3月1日(水)
label:Bigfish Sounds
Format:

Track:
1. 肌色
2. 最後
3. I Warned You
4. per se
5. 瓊 (nice things floting)
6. offshore
7. 抱き合う遊び
8. the battler
9. Quai

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