SENSA

2023.01.27

カネコアヤノ『タオルケットは穏やかな』──次々にキラーフレーズが押し寄せる。今日を生きぬくための「わたしたち」「ぼくたち」のうた。

カネコアヤノ『タオルケットは穏やかな』──次々にキラーフレーズが押し寄せる。今日を生きぬくための「わたしたち」「ぼくたち」のうた。

昨年春に「わたしたちへ」がリリースされて聴いたとき、カネコアヤノの言いたいことの全てがギュッと凝縮された1曲だなと思った。"わたし"を含んだ"わたしたち"。"わたしでいるために"彼女は歌っているけど、わたしみたいなみんなのことを思い浮かべながら歌っている。救えなくとも寄り添うくらいならわたしにできるから、そんなふうに歌を書いたり歌ったりしていたい......というカネコアヤノ表現の心臓部にあたるのがこの曲なのだと、そう思った。そんな重要な1曲は新しいアルバムのどの位置に置かれ、どんな役割を任うのか。それも楽しみに1年9ヶ月ぶりのニューアルバム『タオルケットは穏やかな』を受け取って聴くと、アルバムの最後に置かれてもよさそうなくらいに重みあるその曲がなんと1曲目に配置されたことに驚かされるのだった。

轟音ということもあり聴く側の体力・集中力も問われる曲だが、しかし続く2曲目「やさしいギター」は表題通りに"やさしい"の感触で安心する。あったかいとか明るいとかポップであるという言い方もできるそのようなタッチの曲がそこからしばらく続いて、そこで彼女はのびのびと、ヘンに使命感を持ったりするでもなく、信頼するミュージシャン仲間と一緒に音楽を奏でることの喜びを表している。というか滲み出ている。ギターの林宏敏、ベースの本村拓磨(ゆうらん船)というお馴染みのふたりに、今作ではドラムで照沼光星とHikari Sakashita(San hb)が参加。夏の約1ヵ月間、「伊豆スタジオ」で合宿録音して作ったということもあってか、濃密でありながら風通しのよさもこのアルバムは併せ持っている。

通しで何度か聴くと、再録音された「わたしたちへ」が幕開けであることの意味もわかってくる。「やさしいギター」「季節の果物」「眠れない」「予感」......。軽やかなんてふうにも言えるそれらの曲は、カネコアヤノのごく個人的な、私小説的な歌詞なのだが、メロディーに乗り、彼女の声で歌になると、「わたしたち」「ぼくたち」の歌になる。わたしたち・ぼくたちはみんな不安だし、「だめなことは知ってる」し、「気分はいつも上がったり下がったり」だし、「優しくいたい」としょっちゅう思いながらぐるぐるうろうろ回っていて、でもそういうものだよとカネコアヤノは自分を含む「わたしたち」に歌っているから、なんというか大丈夫なんだという気持ちにもなる(という人がたくさんいるはずだ)。

9曲目に置かれたアルバム表題曲「タオルケットは穏やかな」の強度が高く、「わたしたちへ」に匹敵する(1月の武道館の合奏の日は本編終わりにその2曲が続けて演奏されたそうだ!)。「いいんだよ 分からないまま」。弱っているときなら尚のこと、これを聴いたら救われた気持ちになって、泣いてしまうだろう(という人がたくさんいるはずだ)。

ほかにも書き留めておきたいくらいのキラーフレーズがいくつもあるが、自分的には4曲目「眠れない」の「明日の愛を想像する」、とりわけこれにやられた。どんなにきつくても、ダメでも、「明日の愛を想像する」。それで「ぼくたち」「わたしたち」は生きていける。

文:内本順一



RELEASE INFORMATION

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カネコアヤノ「タオルケットは穏やかな」
2023年1月25日(水)
Format: CD/LP/ Digital
CD ( 全国流通 ) 品番:NNFC-11
価格:3,300 円 ( 税込 ) / 3,000 円 ( 税抜 )

- LP ( 初回生産限定 )品番:NNFS-1008
価格:4,000 円 ( 税込 ) / 3,636 円 ( 税抜 )
※一部店舗・通販サイト、オフィシャル通販「カネコ商店」での販売

Track:
1. わたしたちへ(album ver.)
2. やさしいギター
3. 季節の果物
4. 眠れない
5. 予感
6. 気分
7. 月明かり
8. こんな日に限って
9. タオルケットは穏やかな
10. もしも

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