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2022.08.18
谷口貴洋の最新アルバム『Endless Beauty』は、「自分は何者なのか？」「自分は何をしたいのか？」「そんな自分はどう生きていくのか？」という自己論と人生論の答えを詰め込んだ作品となっている。音楽的な観点から語ることもできるが、それよりも谷口貴洋の人生を知ることで、楽曲の魅力はより強い輝きを放つ。
中学生の頃、谷口は部活だけでなくクラブチームにも所属するほど、ひたすらサッカーに打ち込んでいた。そして、その情熱は音楽に向けられる。レコーディングスタジオがある公立高校を調べて「ここ一択やな」と狙いを絞り、念願の学校へ進学するとバンドを組もうとはせず、多くの時間を自身の楽曲制作に充てた。面白いのが、谷口本人は非常にフランクで親しみやすい性格なのに、高校時代は友達がいなかったということだ。学校へ行くのはテストとスタジオに行く時だけ。初めてインタビューをした際、どうして学校に通わなかったのか？と尋ねると、「たまたまその高校を受けようと思った奴らが集まった箱みたいな感じなので『そりゃあ、うまくいかんでもしゃあないか』と思ってましたね」とあっけらかんと答えた。コミュニケーションが嫌だったわけではなく、無理に学校へ行ってそこで人間形成されるのが嫌だった、という。担任の先生は彼を学校へ通わせるために「一度でもダメなレッテルを貼られたら、もうあかんくなんねん。人気のコーラがあるとするやろ? ただ、1回でも毒物が入ったとなれば、コーラは買われなくなるねん」と説得したが、谷口は「それでも俺は、そのコーラを買うけどな。この人、自分の言葉に酔ってんちゃうんか」と思ったそうだ。自分の価値観を強引にぶつけてくる大人に対して、己の考えを曲げない姿勢は1曲目「キレカケ」の歌詞そのままだ。
彼のツッコミは他者だけでなく、時には自分にも向けられる。それが今作のリード曲になっている2曲目「つまんねぇぞ俺（Album Ver.）」。そして不登校だった過去が色濃く表れているのが3曲目「今日は一歩を踏み出した」。これまで自分の殻に閉じこもっていた男が「つまんねぇぞ俺」とツッコミを入れて、代わり映えしない日常を変えるために、他者と交わろうとして大きな一歩を踏み出す。そこでも「これで自分の世界を変わるのだ」と意気込むことはなく〈期待はしすぎない程度〉と歌う辺りが、実に谷口らしい。
そして自分は何者なのかを模索する旅は5曲目「ムショク」へと続く。この曲は公園で日本酒の「鬼ころし」を飲んでいる無職風のおじさんを見て、「俺なんて無色やん。あの人は楽しそうでええな」と羨む描写から始まる。しかし、そこで見つけた答えは「人間誰しも自分だけの人生を生きているんだから、何をどうしたってオリジナルの人生になるんだ。他人を羨んでも仕方ない」という自己肯定と人生讃歌へと昇華する。
自分なりの生き方を見つけた男は８曲目「あの子の歌声を聞いたとき」で、夜が明ける前に街を出ていくことを決める。そして10曲目「モータープール」で出ていった街に戻ってくる。そこで、かつてあった空き地がなくなっていたことに気づく。幼少期に思いを馳せて、昔は食べられなかったピーマンも食べれるようになったし、味覚も風景も変わっていくのだと改めて実感した結果、〈今手のひらにあるものなんて いずれ全てなくなっちゃうもんさ〉というフレーズに行き着く。アルバムのラストを飾る「Beauty」は、「キレカケ」から始まった12曲の旅路で見つけた答えを示す楽曲となっている。谷口いわく「人間のひたむきさや、もがいている姿にこそ宿る美しさを歌詞に込めた」そうだ。他人の人生に嫉妬したり誰かの成功を妬んだりして、自分の生き方や美学を曲げるのではなく、己を肯定し実直に生きることが素晴らしい。そんなことを『Endless Beauty』で教えられたし、谷口の過ごしてきた時間、見てきた風景が楽曲に鮮明に込められているのが分かる。まさに今作は、谷口貴洋の自叙伝とも言える１枚となっている。
文：真貝聡
谷口貴洋「Endless Beauty」
2022年8月17日(水)
Format: Digital
Label:DAICHU / Sparkling Records
Track:
1. キレカケ
2. つまんねぇぞ俺（Album Ver.）
3. Ending （Album Ver.）
4. 今日は一歩を踏み出した
5. ムショク
6. 盲目
7. ない
8. あの子の歌声を聞いたとき
9. 夢を見るんだ
10. ランプ
11. モータープール
12. Sparkle
13. Beauty
試聴はこちら
@taniguchi_taka
FRIENDSHIP.
中学生の頃、谷口は部活だけでなくクラブチームにも所属するほど、ひたすらサッカーに打ち込んでいた。そして、その情熱は音楽に向けられる。レコーディングスタジオがある公立高校を調べて「ここ一択やな」と狙いを絞り、念願の学校へ進学するとバンドを組もうとはせず、多くの時間を自身の楽曲制作に充てた。面白いのが、谷口本人は非常にフランクで親しみやすい性格なのに、高校時代は友達がいなかったということだ。学校へ行くのはテストとスタジオに行く時だけ。初めてインタビューをした際、どうして学校に通わなかったのか？と尋ねると、「たまたまその高校を受けようと思った奴らが集まった箱みたいな感じなので『そりゃあ、うまくいかんでもしゃあないか』と思ってましたね」とあっけらかんと答えた。コミュニケーションが嫌だったわけではなく、無理に学校へ行ってそこで人間形成されるのが嫌だった、という。担任の先生は彼を学校へ通わせるために「一度でもダメなレッテルを貼られたら、もうあかんくなんねん。人気のコーラがあるとするやろ? ただ、1回でも毒物が入ったとなれば、コーラは買われなくなるねん」と説得したが、谷口は「それでも俺は、そのコーラを買うけどな。この人、自分の言葉に酔ってんちゃうんか」と思ったそうだ。自分の価値観を強引にぶつけてくる大人に対して、己の考えを曲げない姿勢は1曲目「キレカケ」の歌詞そのままだ。
彼のツッコミは他者だけでなく、時には自分にも向けられる。それが今作のリード曲になっている2曲目「つまんねぇぞ俺（Album Ver.）」。そして不登校だった過去が色濃く表れているのが3曲目「今日は一歩を踏み出した」。これまで自分の殻に閉じこもっていた男が「つまんねぇぞ俺」とツッコミを入れて、代わり映えしない日常を変えるために、他者と交わろうとして大きな一歩を踏み出す。そこでも「これで自分の世界を変わるのだ」と意気込むことはなく〈期待はしすぎない程度〉と歌う辺りが、実に谷口らしい。
そして自分は何者なのかを模索する旅は5曲目「ムショク」へと続く。この曲は公園で日本酒の「鬼ころし」を飲んでいる無職風のおじさんを見て、「俺なんて無色やん。あの人は楽しそうでええな」と羨む描写から始まる。しかし、そこで見つけた答えは「人間誰しも自分だけの人生を生きているんだから、何をどうしたってオリジナルの人生になるんだ。他人を羨んでも仕方ない」という自己肯定と人生讃歌へと昇華する。
自分なりの生き方を見つけた男は８曲目「あの子の歌声を聞いたとき」で、夜が明ける前に街を出ていくことを決める。そして10曲目「モータープール」で出ていった街に戻ってくる。そこで、かつてあった空き地がなくなっていたことに気づく。幼少期に思いを馳せて、昔は食べられなかったピーマンも食べれるようになったし、味覚も風景も変わっていくのだと改めて実感した結果、〈今手のひらにあるものなんて いずれ全てなくなっちゃうもんさ〉というフレーズに行き着く。アルバムのラストを飾る「Beauty」は、「キレカケ」から始まった12曲の旅路で見つけた答えを示す楽曲となっている。谷口いわく「人間のひたむきさや、もがいている姿にこそ宿る美しさを歌詞に込めた」そうだ。他人の人生に嫉妬したり誰かの成功を妬んだりして、自分の生き方や美学を曲げるのではなく、己を肯定し実直に生きることが素晴らしい。そんなことを『Endless Beauty』で教えられたし、谷口の過ごしてきた時間、見てきた風景が楽曲に鮮明に込められているのが分かる。まさに今作は、谷口貴洋の自叙伝とも言える１枚となっている。
文：真貝聡
RELEASE INFORMATION
谷口貴洋「Endless Beauty」
2022年8月17日(水)
Format: Digital
Label:DAICHU / Sparkling Records
Track:
1. キレカケ
2. つまんねぇぞ俺（Album Ver.）
3. Ending （Album Ver.）
4. 今日は一歩を踏み出した
5. ムショク
6. 盲目
7. ない
8. あの子の歌声を聞いたとき
9. 夢を見るんだ
10. ランプ
11. モータープール
12. Sparkle
13. Beauty
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オフィシャルサイト@taniguchi_taka
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