SENSA

2022.07.30

Predawn、豪華メンバーと迎えた「The Gaze」ツアーファイナル公演

Predawn、豪華メンバーと迎えた「The Gaze」ツアーファイナル公演

シンガーソングライター清水美和子のソロプロジェクトPredawnが7月23日(土)、東京キネマ倶楽部にてツアーのファイナル公演を開催した。

このツアーは今年4月、フルアルバムとしては約5年半ぶりにリリースしたサードアルバム『The Gaze』を携え、全国12か所(13公演)で行われたもの。また、ツアーに先立ち5月1日には、彼女から妊娠とライブ活動休止の発表があった。今日のファイナル公演が終わるとしばらくステージに立つ姿を観ることが出来なくなるためか、会場は立ち見が出るほど多くの人で賑わっていた。

兵庫県・神戸の旧グッゲンハイム邸(5月13日)を皮切りに、弾き語りで始まった今回のツアーだが、今日を含めた最後の3公演(東名阪)はバンド編成に。ドラムは神谷洵平、ベースはガリバー鈴木という長年Predawnのライブを支え、近年のレコーディングでも重要な役割を担ってきた布陣である。さらにこの東京公演では、EGO-WRAPPIN'や星野源、ハナレグミなどのサポートも務め、Predawnのライブやレコーディングにも度々参加してきた武嶋聡(サックス、フルート、クラリネット)を迎えてのスペシャルなアンサンブルを披露した。

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定刻になり、メンバーがステージに登場。バースツールに腰掛ける清水を挟み、ステージ右手に神谷、左手にガリバーという並びだ。筆者は6月10日、京都のライブハウス磔磔で行われた弾き語り公演を観に行ったのだが、その時よりもさらにお腹が大きくなった清水の姿に思わず胸がいっぱいになる。ほどなくして神谷が操作するシンセサイザーから聞き覚えのあるイントロが流れ出し、その上でかき鳴らされる清水の歪んだアコギが会場の空気を一変させた。アルバム『The Gaze』に先立ち今年2月に先行配信された、「New Life」からこの日のライブはスタートだ。福岡にある彼女の自宅から、満月と新月の夜に配信されていた音声のみのYouTube番組『定点P』でもすでにアコギ1本で演奏されていた楽曲だが、聴いた瞬間にそれとわかる神谷の柔らかく豊かなドラムと、シンプルだがツボを押さえたガリバーのベースとともに織りなすアンサンブルが、「安らぎ」と「不穏さ」が同居するこの曲の不思議な魅力を存分に引き出していく。続く「Floating Sun」も『The Gaze』収録曲。音数を絞り込み、「間」と「響き」を大切にしたアレンジだからこそ、楽器から放たれる1音1音の太さ、豊かさが会場いっぱいに広がっていくのがわかる。

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「コロナ禍で大変ななか、来てくれてありがとうございます」と清水が挨拶すると、客席からは温かい拍手が沸き起こった。「あと1時間ちょっとでツアーが完走できるわけで、ここまで来られて本当に嬉しいです」 2018年にリリースされたEP『Calyx』収録の「紫陽花の庭」は、Predawnのレパートリーの中では数少ない日本語詞の一つ。7thノートを巧みに使った軽快なフォークチューンで、ここ最近のライブでも人気曲である。リズム隊はあえてレイドバック気味に演奏することによって、駆け上がるような清水のメロディを引き立たせていたのが印象的だった。

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ファイナル公演ならではの独特の緊張感や高揚感が落ち着いてきたところで、『The Gaze』の中でもとりわけファンタジックなワルツ曲「Here We Go Again」を披露。神谷は音程の違うトイドラムを数個目の前に並べ、スティックで叩き可愛らしいリズムを組み立てる。一方、エレキベースからウッドベースに持ち替えたガリバーは、弓を用いてこの曲に室内楽的な彩りを添えていく。続く「Monument」は、メジャーとマイナーを行き来するコード進行がジョン・ブライオンを彷彿とさせる楽曲。セクションごとに見える景色が変わっていくような、どこかシネマティックなアンサンブルは、3人だけで演奏しているとは思えないほど芳醇で厚みがあった。

「ツアーをめぐっている間、予想以上に腹が出てきて......」と清水。座っていてもアコギを弾くのが難しくなってきたため、ツアーの途中からクラシックギター用の「足台」を用意してもらったという。「おかげでアコギとは"ディスタンス"を取らずに演奏できています。これ、妊婦さんとお腹の大きなお友だちにオススメですよ」と話し笑いを誘っていた。

寄せては返す波のような、うねりのあるダイナミックなアレンジが印象的な「Ocean Is Another Name for Grief」を経て披露されたのは、このバンド編成で回った東名阪でのみ披露しているという、シガー・ロスの初期代表曲である「Svefn g englar」のカバー。実はこの曲、清水が妊娠を発表した日の『定点P』でもカバーされ、ファンの間でも話題になっていたもの。そこから神谷とガリバーと共に再構築した新アレンジの「Svefn g englar」は、美しく厳かなメロディと、アイスランドの大地を彷彿とさせるアーシーな要素をフィーチャーしたオリジナルにも引けを取らない仕上がりに。間違いなくライブ前半のハイライトとなった。

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続く「炭酸」で前半は終了。15分間の休憩を挟み、ライブ後半は武嶋聡を迎えてのスペシャル編成だ。まずは清水のピアノと武嶋のフルートで、可愛らしいチェンバーポップ「Sigh」(セカンドアルバム『Absence』収録)を披露した。再び神谷とガリバーをステージに呼び込み、アルバムでは清水の朋友Rayonsこと中井雅子がアレンジを手掛けた美しいバラード曲「Canopus」を演奏。さらに「Fictions」「Willow Tree」と『The Gaze』からのナンバーを続けて披露し、会場の空気をゆっくりと温めていく。ブレイクビーツのような神谷のグルーヴィーなドラムに導かれたロックチューン「Universal Mind」は、転調後のソプラノサックスソロと、それに呼応し乱れ打つドラムフィルが圧巻。いつまでも聴いていたくなるような熱演に、会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。

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「せっかく盛り上がったんですけど、次は暗い曲をやります」とのMCに、どよめきのような笑い声が。そしてアルバムでは最後を飾っていた「The Bell」、ドロップDチューニングのアコギと古い大太鼓が奏でる低音が、清水のファルセットボイスと美しいコントラストを成す「Autumn Moon」を続けて演奏し、会場を切ない空気で満たしていった。

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「自分の中では、ツアー中に幾度となく危機がありました。お客さんもきっと、『産まれるんじゃないか!?』と心配された方もいたかもしれません(笑)。でもこうやって完走できたのは、スタッフさんに助けてもらい、お客さんに暖かく見守ってもらえたからだと思っています。ありがとうございます」と、再び感謝の言葉を伝える清水。「この暖かい視線を力に替えて、(出産の時は)息みたいと思います」

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「Paper Bird」を経て「Suddenly」は、ウッドベースにパーカッション、クラリネットを加えたバンド編成で、ライブが終わってしまうのを惜しむかのように丁寧に音を紡いでいく。さらに「Star Child」を演奏して本編は終了。アンコールでは、清水一人で「Something Here Isn't Right」を弾き語りしたあと、バンドメンバーとともにジャジーな初期名曲「Free Ride」(初出は自主制作EP『10minutes with Predawn』)を披露し、この日の公演を締めくくった。

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マイペースながら、作品をリリースするたび/ライブをするたびに新たな挑戦をし続け、音響的にも楽曲的にも大きな進化を遂げてきたPredawn。出産前の最後のライブでも、信頼するメンバーとともに、これまで聴いたことのなかったサウンドスケープを構築していたことに感銘を受けた。しばらく聴けなくなるのは寂しいが、また落ち着いたら再びその声を、その音楽を私たちに届けてほしい。

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文:黒田隆憲
写真:AZUSA TAKADA

Predawn"The Gaze"Release Tour 東京キネマ倶楽部公演ライブ配信
*7/23(土)東京キネマ倶楽部公演のライブ映像配信となります
配信期間:8月10日(水)〜8月24日(水)
■配信チケット受付ページ(販売中)
https://w.pia.jp/t/predawn-tour/


RELEASE INFORMATION

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Predawn「The Gaze」
2022年4月13日(水)
Format: Digital / CD
Label:Pokhara Records

Track:
1. New Life
2. Paper Bird
3. Something Here Isn't Right
4. Ocean Is Another Name for Grief
5. Floating Sun
6. Canopus
7. Willow Tree
8. Here We Go Again
9. Monument
10. Fictions
11. Star Child
12. The Bell

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オフィシャルサイト
@Predawn_staff
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