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2022.06.02
FM福岡で毎週水曜日 26:00~26:55にオンエアしている音楽番組「Room "H"」。九州にゆかりのある3組のバンド、ユアネスの黒川侑司、松本 大、odolの森山公稀が週替わりでMCを務め、彼らが紹介したい音楽をお届けし、またここだけでしか聴けない演奏も発信していく。
今週のMCは、odolの森山公稀が担当。SENSAでは、オンエア内容を一部レポート!(聴き逃した方やもう一度聴きたい方は、radiko タイムフリーをご利用下さい。)
森山:ここからは本来であれば今回で3回目となる新コーナー「今日の一枚(仮)」のお時間なのですが、今日はさらに新たなコーナーと言いますか、特別編でフィールドレコーディング特集というのをやりたいなと思っております。
最近のお仕事でフィールドレコーディングを使った作品を作ったのですが、その流れもあって、そろそろこの番組でもフィールドレコーディングについて話してみたいなという風に思っておりまして、今かな、ということで今日はちょっと変化球でフィールドレコーディング特集をお送りすることとなりました。
そして、前回はソフィアンさんに聞き手兼専門家としてお越しいただいて一緒に話したのですが、僕としてもとても話しやすかったのと、皆さんもいつもより分かりやすく聞けたのではないかなということもありまして、今回も聞き手役にスペシャルゲストお越しいただきました。なかなかラジオに登場するのはレアなんじゃないかという方です。ご紹介します。odolのマネージャー、頼れる兄さん今井さんです!
今井:どうもUK.PROJECTの今井と申します。よろしくお願いいたします。
森山:今井さん来ちゃいましたね。今井さんってラジオに出演されたことありますか?
今井:ラジオ出演は、前職がタワーレコードのスタッフだったのですが、そのときにショップのスタッフとして何ヶ月かに一回出るみたいなことはやっていたんですけど、odolに携わってからはちょっと記憶にないですね。
森山:そうですよね。ということで、今井さんから自己紹介というか、僕らとの関わりについて教えていただいてもいいですか?
今井:odolとの関わりや歴史というと3時間ぐらいになっちゃうので(笑)、今日はハショって言いますけども、odolってHIP LAND MUSICさんと、僕が働いているUK.PROJECTという会社の2社でマネージメントをやっているんですよね。元々UK.PROJECTがレーベルとして楽曲のリリースをやっていまして、それは2015年からです。僕はその最初のリリースから携わっていまして、今に至ると。
森山:かなりハショりましたね(笑)。最初はレーベルのアーティスト担当として一緒にやってもらっていて、マネジメントになってからはマネージャーとしてついてくれています。
今井:そうだよね。出会いは2014年の8月にライブ観に行って、新代田FEVERかな。それはフジロックのROOKIE A GO-GOの直後だったと思うんですよ。
森山:そうですね。8月だとその頃だと思います。
今井:それからの付き合いです。僕はそこからずっと音源のリリースに関しては、よくA&Rとかそういう言い方をしていますけども、楽曲をレコーディングしたり、リリースの前後でどういう風に皆さんに届けるかみたいなプランニングしたりということ主にやってきました。冒頭に話しましたように、2017年ぐらいからだと思うんですけど、HIP LAND MUSICさんと共同でマネージメントということもやらせていただくようになりました。
森山:という今井さんなのですが、なぜ今回来ていただいたかと言うと、まずは何よりも僕が話しやすいというのがありまして。
今井:恐縮です。8年ぐらいの付き合いになりますよね。
森山:僕の音楽人生の多くを知っていただいているという存在でもあります。そしてもう一つの理由としては、フィールドレコーディングについて話す時に皆さんと同じような立場で聞いてくれる、そんな人がいたらいいなと思ってお呼びしました。
今井:森山くんがフィールドレコーディングをライフワーク的にやっていますということは、ずいぶん前から聞いてはいたんですけど、実際にやっている場に僕は行ったことないし、あと「〇〇行ってきた」みたいな話だったり、odolのある曲で「フィールドレコーディングの音を使った」というのは聞いたことあるんですけど、僕が知ってる曲以外にも使っていたという話があって、完全にお客さん側と言いますか、全然知らない状態です。
森山:そうですよね。今回は僕がやっているフィールドレコーディングって何なのか?というのを、今井さんに知っていただくとともに、リスナーの皆さんにも「ちょっと面白そうかも」と思っていただけたらいいなと思っております。
早速なのですが、今井さん、フィールドレコーディングってどういうイメージがありますか?
今井:僕が知る限りでは、なんとなく「自然の音を録る」みたいなことだったり、その他に街中での音みたいなものを楽曲に落とし込んだりすることもあるのかな、というイメージなんですけど。
森山くん的に、「フィールドレコーディングって何?」と聞かれると、どういう答えになりますか?
森山:そうですね。それにお答えする前に、実はフィールドレコーディングって言葉にも一応共有されている定義的なものがありまして、それを簡単に説明すると、スタジオとかコンサートホールみたいな録音のための環境ってあるじゃないですか?そういう環境以外の場所での録音は全部フィールドレコーディングになります。
今井:あ、そうなんだ。じゃあ今これを収録している最中にお腹鳴っちゃってたりしますが、それもフィールドレコーディングには入るんですか?
森山:(笑)。そこも結構明確な線引きは難しくて、今って実は会議室のようなところで収録しているのですが、これってスタジオじゃないからフィールドレコーディングかと思いきや、ここは多分「すごく出来の悪いスタジオ」と言えると思うんですよ。
収録するためにマイクを持ってきて機材を整えて、ドアに「収録中・お静かに」の張り紙をして...という形で収録しているので、他の音が鳴ることとか、例えば偶然救急車が通ることとか、そういうことって想定されてないというか、なるべく排除したいじゃないですか?お腹の音とかも。なので、今のこの収録はフィールドレコーディングとは言えないと思うんです。
けれど逆に、レコーディングスタジオの中だとしても、例えばセッティングをしている間、その会話だとか足音とか機材をガチャガチャやっている音というのを、どこかにマイクを置いておいて1時間回して、というフィールドレコーディングも出来る思うんですね。
つまり、言葉の定義としての、「スタジオとかコンサートホール以外の場所での録音がフィールドレコーディング」というのも、なかなかこれだけで全部は説明できないんですけど。
今の例とかを考えると、録音の目的や、録る人の意図というのもフィールドレコーディングなのかそうでないのか、というのには大事な要素な気がしますよね。
なので、フィールドレコーディングとは何か?を定義として、言葉でくっきりと正確に表すのは僕には難しいのですが、でも全体的なイメージは皆さんにも割と理解していただけそうな気がしてます。
今井:なるほど。
森山:むしろ、皆さんの中でイメージがつきづらいのは、「フィールドレコーディングとは何か?どういうことをやっているのか?」ということよりも、どっちかというと「フィールドレコーディングを面白がっている人って、何が面白いのか?」ということだと思うんですよね。
今井:それは思う。
森山:(笑)。
今井:「いい音で録れた」と言われても...みたいなところはあるかもしれないですね(笑)。
森山:そうですよね。僕ももちろん始める前は同じように「何が面白いの?」状態だったし、フィールドレコーディングの面白さみたいなのを人に伝えるのってすごく難しいなって思ってきたんですよ。なので、今回この特集をさせてもらうということで、なるべく言葉で伝えられるように色々考えてみたんです。
それでようやくなのですが、「フィールドレコーディングって何?」を僕なりに答えさせてもらうと、まず、フィールドレコーディングというのは、「音の写真」なんですね。
写真ってみんな日常的に撮ったりするじゃないですか?スマホで撮ったりとか、カメラが趣味の人もいますよね。プロとしてやらている方ももちろんいます。けれど、写真の楽しみを言葉で説明するのって難しくないですか?
写真っていろんな目的とか、面白さとか、関わり方とか、人それぞれ状況それぞれに多様にあると思うんですけど、それと一緒でフィールドレコーディングというのも人それぞれに楽しみ方や感じている面白みがあって、それぞれに目的や意図があるし、逆にこうしないといけないみたいなこともないと思うんですよ。
そういう意味で、「音の写真」というイメージをまずもっていただくことがわかりやすいのかなという風に思っています。
今井:なるほど。じゃあ森山くんにとっては割と日常的な事って感じですかね?
森山:そうですね。僕はミュージシャンなので、ある意味ではプロとして、仕事として、音楽を作るための素材を録ったりとか、音を集めに出かけたりってこともあるんですけど、それはたぶん僕のフィールドレコーディングの10%ぐらいで、残りの90%は、僕がnotプロとして写真を撮るのと同じようなカジュアルさで、持ち歩いている小さなマイクを使って、気になった時に回してみるような。
今井:かっこいいね。音楽家って感じ。
森山:(笑)。馴染みがないことだと思うのでそれをかっこいいと感じるかも知れないのですが、それは音か光かの違いで、皆さんも同じようにやっていることなんじゃないかなと思うんですよね。好きな景色に気付いた時にスマホで撮るとか、良い映画を見た時にパンフレットを写真で撮っておくとか、久しぶりに会った友達と自撮りするとか、あるじゃないですか?
そんな感覚に近いと感じていただきたくて、「音の写真」という言葉を使いました。
もちろん「写真」という言葉にはスタジオで撮るような、例えば家族写真とかアーティスト写真とかも含まれるので、それは「フィールドレコーディング」で言うところのものとはちょっとずれがあるのですが、厳密な言葉の定義というよりは、ざっくりとした実践のイメージや、面白みのポテンシャルは写真と似ているのではないかなと思っています。
つまり、僕たちが「何を面白がっているのか?」というのも、皆さんが写真に感じている面白さと基本的には一緒なんですね。人それぞれであるということも含めて。というのが、僕なりのざっくりとした説明かなと思います。
今井:それで随分と分かりやすくなりましたね。ミュージシャンだし、当然音に興味がある人じゃないですか?でもメロディーとかとまた違うというか、「この音を鳴らして録る」みたいな音階というのではないなというイメージがあるので、どういうところ楽しんでいるんだろう?と思っていたので、とてもよくわかりました。
森山:写真は趣味としてやっている人もいるし、表現、芸術としてやってる人もいるし、当然、研究や何かのアーカイブのためだったり、学術的な目的でも使われてもいますよね。そして多くの人は、日常的に思い出を残すためとか、例えば何かのパスワードを記録しとくためとか、そういう実用的な目的のためにも「写真を撮る」ということをしていることもあると思います。
録音も本来はそうなんですよね。音楽家・ミュージシャンのためのものとか、アーティストのための、もしくは研究者のためのものというイメージが拭えてない気がしてますが、それはフィールドレコーディングのごく一部だと僕は思っています。本当はもっと開かれた、というより何てことないことなのかなと。
70年代ぐらいに生録ブームがあったらしいというのを聞きますが、ご存知ですか?カセットデンスケというポータブルレコーダー、持ち歩けて録音できる機材が流行って、それで電車の音を録ったりとか、鳥の音録ったりとかというのが一時的にブームになったということがあったそうで、それが実際にどのくらいの規模感だったかというのは分かりませんが、でもそういうことからも普通にカジュアルに楽しめるポテンシャルはあるのかなと思っているんですね。
今井:なるほど。
森山:なのでこのシリーズを通して、そういう人が一人増えればいいなという感じで、僕なりの面白さを伝えていきたいなと。
今井:友達を増やしていきたいと。
森山:はい(笑)。友達が増えるといいのって、やっている人口が少ないと機材や環境も開発されづらいんですよね。わかりやすい比較で言うとiPhoneのカメラの性能ってものすごいじゃないですか?どんどん上がっていく。一方iPhoneのボイスメモで収録しようとすると、まずモノラルでしか録れないんですよ。iPhoneには複数のマイクが内蔵されてはいるんですけど、唯一映像を撮る時だけ、設定を変えればステレオで収録できたりするんですけど、音だけをステレオで収録することはできません。
さらに、ボイスメモアプリのモノラル録音の品質も、デフォルトでは、圧縮されてしまう低い設定になっているんですよ。それをわざわざ設定で上げないと、そのポテンシャルすら活かせないと。
今井:映像とボイスメモでは録り方が変わっちゃうんだ。
森山:そうです。それがいかに音だけを録るということが求められていないかという。
ボイスメモを使うのはその名の通りメモ代わりだったり、インタビューの収録といった実用的な用途だけが想定されているんだろうなと。もし仮にフィールドレコーディングが多くの人に楽しまれているものだったら、iPhone1台でそれなりに良い音質でステレオで音を録れるとか、技術的に全然できる話だと思うので、そうなったらいいなみたいな。
まあそこまでは現実的でないとしても、そういう方向に近づいていけば嬉しいなという、そんな気持ちもあります。
今井:なるほど。そのフィールドレコーディングをやってみようって思った時に、必要な機材は、iPhoneだとさっき言ったようにモノラルでしか録れなかったりというのがありますけど、森山くんのフィールドレコーディングする時の機材として使っているのを見たのは、iPhoneのライトニングのところに繋げるマイクとかありましたよね?
森山:そうですね。それが僕がたどり着いた答えなんですけど。
今井:あ、それが答えなんだ!
森山:僕なりの今のところの答えですね。今も持っているんですけど。
僕も最初はよくイメージされるようなTASCAMのレコーダーを使っていて、いくつか買い替えながら使ってきたんです。マイクやスタンドも一緒に持ち運んで、出掛けて行った先で機材をセッティングしてマイクを繋いでということをしてみた時期もあったんですけど。そうやっていくと確かに音質的にはより良く収録できたりするのですが、より良い音質の方がより良い録音なのか、というと必ずしもそうではないと思うんですよね。
それはどういうことかと言うと、また写真の例でいくと、大きな一眼やレンズをいくつも持ち歩く人もいるけど、iPhoneで十分という方もいるじゃないですか?
僕の使っているSHUREのMV88というライトニングで接続できるマイクは、ステレオのコンデンサーマイクで比較的繊細に音が録れるものなのですが、すごく小さいんですね。指くらいの小ささで、なのでずっと鞄に入れっぱなしとか、ポケットに入れっぱなしでも移動できるというのがすごく良くて、僕は普段これを使っています。もう3代目です。
ただ誰にとってもこれがいいよというよりは、やっぱり写真と一緒で、その人にとって良いのが何かというのは違ってくると思います。
今井:僕はいま予想しながら話していたんですけど、「最初はその小さいマイクを使っていました。でもやっぱり本格派なので、今はもっと大きいレコーダーにして録っています」という答えが来ると予想していたんですけど、むしろ小さい方を森山くんは使っているんですね。それを選んだ理由というのは、音質というところではどっちがいいとかありますか?
森山:収録できる音質の"上限"みたいなところを上げようとすると、やはりレコーダーとマイクとか、大きな機材が必要になってくるんですね。もっともっと求めて行くとやっぱりどうしてもまだ小型化されてない機材が必要にもなってくるんですけど、少なくとも"僕が求める音質"で録るとか"最適な形式"で録るというのは十分できるんです。数万円ぐらいの安いものなんですけど。レコーダーとマイクよりも10分の1のサイズで持ち運べるというところが1番の決め手かなと思います。
今井:普段から携帯していて、邪魔にならないという感じですね。
森山:そして思いついた時に録れるというのが大事ですね。充電を気にする必要もなく、ケーブルすら繋がなくて良いですからね。これが今の僕には合っているということです。なので皆さんがもしやってみようかなって思った時に、わざわざマイクとかレコーダーを買う必要すらなくて、iPhoneでもいいと思うんですよ。iPhoneのボイスメモでも。
やっぱりフィールドレコーディングと言うと、何か大層なことのように聞こえがちですけど、全然そんなことないんです。例えば久しぶりに実家に帰った時に家族との会話をちょっと10分ぐらい回しといてみるとかするんですよ。それを一週間後とか、聴き返してみるとそれだけでもすごく面白いと思います。
「映像でいいじゃん」、「映像の方がもっとありありと、表情とか動きも残せるじゃん、音も同時に録れるし」と思うかも知れませんが、そのあたりの映像との比較とかについては詳しくは次回に話したいんですけど、音だけで録ってほしい理由をいくつか簡単に紹介しておきます。
まず、映像を撮るとどうしても明確な"枠"が発生しますよね。画角、フレームというのがあるので、映っていない(映さなかった)部分というのは映せないんですよね。でも音というのは性質上、どうしても360度の音が入っちゃうんですね。もちろん一点を狙ってを録るという事も出来るんですけど、その境界は映像や写真に比べるとすごく緩やかで、「この音だけを録る」もしくは「この音は録らない、入れない」ということはなかなか難しいんですね。iPhoneとかだとなおさらそうなんですけど。そして、その映像が作る枠の存在が、聴く音、聴こえる音にも強く影響してしまいます。
ということがあったりとか、他には、カメラを向けているとか、向けられているというのはすごく人の行動とか思考を変えると思うんですよ。
今井:たしかに意識しちゃうよね。
森山:例え家族など親しい仲であっても、iPhoneのカメラを向けて構えられていたら喋り方とか喋る内容って変わってしまうと思うんですね。それが良い悪いというよりは、何かしら影響するわけですね。カメラが無い中で突然ポーズとってみたりとかしないですもんね。
一方、例えばiPhoneを録音状態にしてどこかその辺に置いておいた場合、数分経てばみんなそのことを割と意識しなくなるんですね、経験上。収録されているということを忘れて"普段の会話"みたいなのを普段の会話のまま残しておけるとか、すごく些細な出来事とかが起こったりするんですよ。カメラを構えられている中では、些細なことは起きづらいですよね。
そういう部分も、僕の中ではすごく"音だけ"ならではの面白みの一つかなという風に感じています。
今井:なるほど。ちなみにいつ頃から興味を持って録ろうと思い始めたというか、マイクをいつも持ち歩くみたいなことをやっているんですか?
森山:そうですよね、よくぞ聞いていただきました(笑)。そのきっかけの話をしておかないとですね。そのきっかけを話す前にこの辺りで1曲聴いていただこうかなと思います。このコーナーをやらせていただくきっかけとなった、「INTO THE WILD」という吉田博さんと吉田遠志さんという版画家の方の展覧会が長野の松本で行われていたんですが、そのBGMを制作しまして。実際はとても長いのですが、一部を抜粋してお送りしたいなと思います。どんなところにフィールドレコーディングの音が使われているかとかちょっと気にしながら聴いていただけると嬉しいなと思います。それではどうぞ。
森山:お送りしているのは「INTO THE WILD」BGMです。
先ほど今井さんに聞いていただいたフィールドレコーディングを始めたきっかけ、そのあたりを話していきたいなと思っています。最初にそのフィールドレコーディングというよりも、楽器や歌だけじゃない音を録ることを意識的にしたのは大学2年生の頃のゼミの一環だったんですね。
今井:東京藝術大学のゼミですね。藝大在学中もいろんな音の研究というか実験というか、そういうことをやっているのはチラチラ聞いていましたね。
森山:そうですよね。作品制作を今井さんにちょっと手伝ってもらったこともありました。
そんな中で大学2年生の時に、"ミュージックコンクレート"の作品を作ったんです。この"ミュージックコンクレート"って何だ?ということなんすけど、一応概要をお伝えすると1948年頃に始まった音楽の概念というか、ピエール・シェフェールという人がいて、その人がコンセプトを提唱したんですけども。具体音楽って訳されたりするんですね、"コンクレート"というのは"具体的な"とか"具象の"という意味があって。
簡単に言うと現実に鳴っているあらゆる音、先ほどイメージしてもらったようなフィールドレコーディングで録りそうな音も含めて、車の音とか、人の喋り声や笑い声とか、川の音とかなんでもいいんですけど、そういう現実の具体的な音を録音して加工して音楽作品にするというものです。
今となってはそれだけで割と普通に何となくのイメージがつきそうですけど、それまでの音楽といえば器楽曲、声楽曲、電子音楽含め、楽譜に記され演奏されるような"抽象的な"発想が中心だったわけで、そんな中で録音技術の発達とともに生まれたものなんですね。
それまで「音楽」という言葉にイメージされていた「五線譜に記されて楽器や人の声で演奏される音楽」や「シンセサイザーでサイン波から作っていく音楽」みたいなものはとても抽象的なものなわけですね。それに対する「具体的な音楽」という発想というか、具体的な音、抽象化されていない音について考える、耳を傾ける、そういう音楽を考えるというようなところに"ミュージックコンクレート"のアイデアがあります。
一般的に一番知られているものでいくと、The Beatlesの「Revolution 9」というサウンドコラージュみたいな、あの曲をイメージしてもらえるといいかもしれません。あの曲は厳密に"ミュージックコンクレート"ではないと思うんですけども、"ミュージックコンクレート"の手法を使った曲ですね。
この"ミュージックコンクレート"から、例えばいまで言うサンプリングという発想に繋がったりしているんですね。そういう意味ではヒップホップの先祖も、もしかしたらここと言えるかもしれないし、現代のさまざまなポピュラーミュージックにも影響を与えている概念だと思います。
それで、話を戻しますが、その作品をゼミの一環で作ったんですよ。その時は先ほど話した初代のTASCAMのレコーダーを使っていたんですけども、それでいろんな音を録り始めたんですね。そのときは水の音をテーマにした作品を作ったので、家の近所の川に行ったりとか、自宅のトイレを流してマイクで音を録ったりとか、雨の音とか、水の音というのをいろいろ録って、それを組み替えたり加工したりして1つの曲を作りました。
ただ、その時すぐにフィールドレコーディングにはまったってわけではなくて、そのときに"具体音を録る"ということが意識の中にまず入ってきて。そういうことを意識するようになって、その中で様々な音楽や作品に触れていくうちに、「あ、ポップスにもめちゃくちゃ使われているな」とか「この作品でも使っているんだ」とかそういうことが段々積み重なってきて。それからなんとなくこうたまにレコーダーを持っていったりとか。
今井:それに気づくようになってきたんだね。
森山:そうですね。そういう耳が育ってきたというのもあって、それで面白さを感じてきて日常的にマイクを持ち歩くようになって、やがてマイクが小さくなっていきました。その日常的にマイクを持ち歩き始めたのが2017年ぐらいです。
さっきもお話したんですけど、僕の場合は音を録りに行くためにどこかに行ったりとか、マイクをしっかりセッティングしたりというのはせいぜい10%ぐらいのもので、基本的には日常の中で気が向いたらマイクを取り出して録音ボタンを押すという感じなんです。
アーティストの中でもフィールドレコーディング自体を作品のコンセプトにというか、フィールドレコーディングありきでの作品制作をされている方ももちろんたくさんいて、そういう作品も面白いもの多いんですが、僕はそうではなく、もっと趣味のようにでカジュアルに取り組んできたという感じです。
今井:なるほどね。今の"ミュージックコンクレート"の話は藝大生になった気分になれますね。
森山:(笑)。僕もそんなに詳しいわけではないのであまり正確ではないかもしれません。気になった方は改めて調べてみてくださいね。
でもせっかくなのでその話をもう一歩踏み込んでしますと、先ほども言いましたがミュージックコンクレートは、ピエール・シェフェールというパリの作曲家であり研究者でもある方を中心に生まれた「考え方」なんですね。以前、アンビエント回をこのRoom Hでもやりましたが、アンビエントミュージックという概念をブライアン・イーノが提唱したように、そのコンセプトや背景から、音楽にまつわる様々なことを考えるきっかけにもなると思います。
例えば、"具体音"、"具体音楽"ということを考え始めると、「音楽って抽象的なものだったんだ」ということにより深く気づけると思うんですよ。例えば五線譜に記された音楽って、300年前に演奏されたとしても、いま演奏されたとしても同じ作品、同じ曲ですよね。もしくは僕らのようなポップスだとしても、数年前に出した楽曲をリアレンジして今年出すというのも、同じ曲ですよね。まるっきり音は違う、波形としてみた時に全く違うものだとしても、同じ楽曲だと認識して皆さんが楽しむじゃないですか?他の人の作品のカバーでもそうです。
それができるのは、やっぱり「音楽を作る」ということが、「抽象的なものを作る」ことだからですよね。逆に抽象的なものを作るのって音楽以外だと結構難しいというか、それが出来るものって少なくて、例えば絵画とかで同じ対象を同じ構図で別の人が描いたとしても、それは完全に違う作品か、もしくは"偽物"や"オマージュ"じゃないですか?たとえ同じ作者が自分の昔の作品を似たように描いたとしても、それは違うものと捉えられたりすると思うんですね。ですが、音楽はそうはならない。具体音楽という言葉を意識すると、音楽の持つ抽象性をより実感できるなと思います。
今井:なるほど。非常に深い話ですね。絵と音楽の違いというのは、そう言われてみないとあんまり考えないですけど、たしかになと思いました。
森山:そうですよね。所謂著作権印税の対象に、編曲、アレンジの要素が含まれていないというのも、おそらくそういうところもあると思うのですが。現代においては編曲も含めた方がいいんじゃないかなとは思っているんですけども。でもさっきの話で、最後に残るものって、やっぱりそういう音符の部分になりますよね。その曲がギリギリその曲であるところまで削ぎ落としていくと、多くの曲では、そういうところが残ると思います。それを変えちゃうとその曲じゃないという。そういうことが理屈になっているんだろうなとは思いますが。
今井:なるほどね。
森山:抽象的なものを生み出すことができるというのはすごく素晴らしいことだと思います。
今井:odolの楽曲の中に、森山くんがフィールドレコーディングした音を入れているという曲が存在するじゃないですか?僕が認識しているのは2017年にリリースした『視線』というEPに収録されている「またあした」という曲。イントロから聴こえる「ザザザ」というか。
森山:あのリズムの部分ですね。
今井:そうそう。聴いたことのないリズムが来たなという風にリスナーの方も聴いていただけるとわかるかと思うんですけども、あれはどこで録ったものですか?
森山:あれは宮崎県にある祖父母の家です。砂利の庭で歩いている足音が使われています。その元の音があるので、それを1回聴いてみますか。
森山:というように、完全に足音ですよね。
この「またあした」という曲はたぶんodolの楽曲の中でも1番分かりやすくフィールドレコーディングの音が使われているんじゃないかなと思います。むしろ、この曲自体がそのフィールドレコーディングから生まれたと言っても過言ではなくて。
実はこのフィールドレコーディングはその前後も何十分も続いていて、祖母との何気ない会話、「そこに石が詰まっちゃうから大変なのよね」みたいなこと言ってる会話とか、家の中でその日流れていたラジオのニュース音声や、引き戸タイプの玄関のドアをガラガラと開けて家の外に出る音などなど...が収録されているんですよ。
つまり、あらかじめ曲に使おうと思ってサンプリング的に足音を録ったものではなくて、2017年の録音なのですが、その頃は僕がフィールドレコーディングにハマり始めた時なので、ひたすら色々なタイミングで回している中の一つでした。
宮崎の祖父母の家の庭というのは、僕にとって子供の頃にその庭で遊んでいた記憶っていうのがすごく染み付いているんですね。そんな話をしながら、砂利の庭での足音というのを曲のリズムに使ってみたんだって話をミゾベにして、そういう幼少期の遊んでいるイメージを歌詞の発想の元にしたり、あとは「またあした」というタイトルをつけてくれて、こういう曲になっていきました。ということで1回聴いていただきましょう。
森山:これは気づけたのではないですかね?
今井:そうですね。印象的ですもんね。たぶんここまでフィーチャーされている、楽器以外の音がフィーチャーされているというのも珍しいから、リスナーの方も「この曲に入ってるんじゃないかな」って気付きやすいのかなと思ったりします。僕もこれは当時から森山くんからも聞いていましたし、インタビューでも話していました。でもどうやら他の曲にも入っているようなので、それを教えてもらいたいんですけども、今日はちょっと時間もなさそうですので、まず今日はどのアルバムに入っているかだけ教えてもらえますか?
森山:この「またあした」は2017年リリースじゃないですか?その頃がやっぱりフィールドレコーディングが個人的にホットだったので、その周辺の楽曲に多いですね。
今井:そうすると2018年の『往来するもの』ですね。このアルバム9曲入りで、そう言われると怪しい曲がいっぱいありますね。
森山:(笑)。いっぱいあると思います。多分4〜5曲入っていますね。
今井:やっぱり!1曲じゃないだろうなとは思っていましたね。ちょっとこれはリスナーの皆さんもどの曲なのかぜひ予想していただけたらと思います。
森山:そうですね、当たるかな...。次回は録った音と曲を聴き比べながら紹介してみようかなと思います。ということですごくたっぷり話させていただいたんですが、今日はフィールドレコーディングの概要と、僕の出会いと、それから「音の写真」という話からどういうところが面白いと感じているのかなど、ざっくりとお話ししました。
次回はもうちょっと踏み込んで、音ならではの面白さとか、odolの楽曲での具体的な使われ方とかそういうところもお話できたら嬉しいなと思っております。
今井:もうこれは完全に講義ですよ。大学の授業を聞かせて頂いているようで、永久保存版ですね。
森山:いやいやいや(笑)。好き勝手喋っているだけなので、発言には責任を持てませんので...気軽に聴いていただけたら嬉しいなと思います。
森山公稀「into the wild」
odol「またあした」
ヨシ ホリカワ「虹」
番組へのメッセージをお待ちしています。
Twitter #fmfukuoka #RoomH をつけてツイートしてください。MC3人ともマメにメッセージをチェックしています。レポート記事の感想やリクエストなどもありましたら、#SENSA もつけてツイートしてください!
放送時間:毎週水曜日 26:00~26:55
放送局:FM福岡(radikoで全国で聴取可能)
黒川侑司(ユアネス Vo.&Gt.)
福岡で結成された4人組ロックバンド。感情の揺れが溢れ出し琴線に触れる声と表現力を併せ持つヴォーカルに、変拍子を織り交ぜる複雑なバンドアンサンブルとドラマティックなアレンジで、
詞世界を含め一つの物語を織りなすような楽曲を展開。
重厚な音の渦の中でもしっかり歌を聴かせることのできるLIVEパフォーマンスは、エモーショナルで稀有な存在感を放っている。2021年12月1日に初のフルアルバム「6 case」をリリース。
オフィシャルサイト/ @yourness_on/ @yourness_kuro
松本大
2006年に長崎県で結成。バンド名「LAMP IN TERREN」には「この世の微かな光」という意味が込められている。松本の描く人の内面を綴った歌詞と圧倒的な歌声、そしてその声を4人で鳴らす。聴く者の日常に彩りを与え、その背中を押す音楽を奏でる集団である。
2021年12月8日にEP「A Dream Of Dreams」を配信リリース。
オフィシャルサイト/ @lampinterren/ @pgt79 / @lampinterren
森山公稀(odol Piano&Synth.)
福岡出身のミゾベリョウ(Vo.)、森山公稀(Pf./Syn.)を中心に2014年東京にて結成した3人組。ジャンルを意識せず、自由にアレンジされる楽曲には独自の先進性とポピュラリティが混在し、新しい楽曲をリリースする度にodolらしさを更新している。
2022年3月16日に「三月」を配信リリース。
オフィシャルサイト/ @odol_jpn/ @KokiMoriyama
今週のMCは、odolの森山公稀が担当。SENSAでは、オンエア内容を一部レポート!(聴き逃した方やもう一度聴きたい方は、radiko タイムフリーをご利用下さい。)
フィールドレコーディングとは?
森山:ここからは本来であれば今回で3回目となる新コーナー「今日の一枚(仮)」のお時間なのですが、今日はさらに新たなコーナーと言いますか、特別編でフィールドレコーディング特集というのをやりたいなと思っております。
最近のお仕事でフィールドレコーディングを使った作品を作ったのですが、その流れもあって、そろそろこの番組でもフィールドレコーディングについて話してみたいなという風に思っておりまして、今かな、ということで今日はちょっと変化球でフィールドレコーディング特集をお送りすることとなりました。
そして、前回はソフィアンさんに聞き手兼専門家としてお越しいただいて一緒に話したのですが、僕としてもとても話しやすかったのと、皆さんもいつもより分かりやすく聞けたのではないかなということもありまして、今回も聞き手役にスペシャルゲストお越しいただきました。なかなかラジオに登場するのはレアなんじゃないかという方です。ご紹介します。odolのマネージャー、頼れる兄さん今井さんです!
今井:どうもUK.PROJECTの今井と申します。よろしくお願いいたします。
森山:今井さん来ちゃいましたね。今井さんってラジオに出演されたことありますか?
今井:ラジオ出演は、前職がタワーレコードのスタッフだったのですが、そのときにショップのスタッフとして何ヶ月かに一回出るみたいなことはやっていたんですけど、odolに携わってからはちょっと記憶にないですね。
森山:そうですよね。ということで、今井さんから自己紹介というか、僕らとの関わりについて教えていただいてもいいですか?
今井:odolとの関わりや歴史というと3時間ぐらいになっちゃうので(笑)、今日はハショって言いますけども、odolってHIP LAND MUSICさんと、僕が働いているUK.PROJECTという会社の2社でマネージメントをやっているんですよね。元々UK.PROJECTがレーベルとして楽曲のリリースをやっていまして、それは2015年からです。僕はその最初のリリースから携わっていまして、今に至ると。
森山:かなりハショりましたね(笑)。最初はレーベルのアーティスト担当として一緒にやってもらっていて、マネジメントになってからはマネージャーとしてついてくれています。
今井:そうだよね。出会いは2014年の8月にライブ観に行って、新代田FEVERかな。それはフジロックのROOKIE A GO-GOの直後だったと思うんですよ。
森山:そうですね。8月だとその頃だと思います。
今井:それからの付き合いです。僕はそこからずっと音源のリリースに関しては、よくA&Rとかそういう言い方をしていますけども、楽曲をレコーディングしたり、リリースの前後でどういう風に皆さんに届けるかみたいなプランニングしたりということ主にやってきました。冒頭に話しましたように、2017年ぐらいからだと思うんですけど、HIP LAND MUSICさんと共同でマネージメントということもやらせていただくようになりました。
森山:という今井さんなのですが、なぜ今回来ていただいたかと言うと、まずは何よりも僕が話しやすいというのがありまして。
今井:恐縮です。8年ぐらいの付き合いになりますよね。
森山:僕の音楽人生の多くを知っていただいているという存在でもあります。そしてもう一つの理由としては、フィールドレコーディングについて話す時に皆さんと同じような立場で聞いてくれる、そんな人がいたらいいなと思ってお呼びしました。
今井:森山くんがフィールドレコーディングをライフワーク的にやっていますということは、ずいぶん前から聞いてはいたんですけど、実際にやっている場に僕は行ったことないし、あと「〇〇行ってきた」みたいな話だったり、odolのある曲で「フィールドレコーディングの音を使った」というのは聞いたことあるんですけど、僕が知ってる曲以外にも使っていたという話があって、完全にお客さん側と言いますか、全然知らない状態です。
森山:そうですよね。今回は僕がやっているフィールドレコーディングって何なのか?というのを、今井さんに知っていただくとともに、リスナーの皆さんにも「ちょっと面白そうかも」と思っていただけたらいいなと思っております。
早速なのですが、今井さん、フィールドレコーディングってどういうイメージがありますか?
今井:僕が知る限りでは、なんとなく「自然の音を録る」みたいなことだったり、その他に街中での音みたいなものを楽曲に落とし込んだりすることもあるのかな、というイメージなんですけど。
森山くん的に、「フィールドレコーディングって何?」と聞かれると、どういう答えになりますか?
森山:そうですね。それにお答えする前に、実はフィールドレコーディングって言葉にも一応共有されている定義的なものがありまして、それを簡単に説明すると、スタジオとかコンサートホールみたいな録音のための環境ってあるじゃないですか?そういう環境以外の場所での録音は全部フィールドレコーディングになります。
今井:あ、そうなんだ。じゃあ今これを収録している最中にお腹鳴っちゃってたりしますが、それもフィールドレコーディングには入るんですか?
森山:(笑)。そこも結構明確な線引きは難しくて、今って実は会議室のようなところで収録しているのですが、これってスタジオじゃないからフィールドレコーディングかと思いきや、ここは多分「すごく出来の悪いスタジオ」と言えると思うんですよ。
収録するためにマイクを持ってきて機材を整えて、ドアに「収録中・お静かに」の張り紙をして...という形で収録しているので、他の音が鳴ることとか、例えば偶然救急車が通ることとか、そういうことって想定されてないというか、なるべく排除したいじゃないですか?お腹の音とかも。なので、今のこの収録はフィールドレコーディングとは言えないと思うんです。
けれど逆に、レコーディングスタジオの中だとしても、例えばセッティングをしている間、その会話だとか足音とか機材をガチャガチャやっている音というのを、どこかにマイクを置いておいて1時間回して、というフィールドレコーディングも出来る思うんですね。
つまり、言葉の定義としての、「スタジオとかコンサートホール以外の場所での録音がフィールドレコーディング」というのも、なかなかこれだけで全部は説明できないんですけど。
今の例とかを考えると、録音の目的や、録る人の意図というのもフィールドレコーディングなのかそうでないのか、というのには大事な要素な気がしますよね。
なので、フィールドレコーディングとは何か?を定義として、言葉でくっきりと正確に表すのは僕には難しいのですが、でも全体的なイメージは皆さんにも割と理解していただけそうな気がしてます。
今井:なるほど。
森山:むしろ、皆さんの中でイメージがつきづらいのは、「フィールドレコーディングとは何か?どういうことをやっているのか?」ということよりも、どっちかというと「フィールドレコーディングを面白がっている人って、何が面白いのか?」ということだと思うんですよね。
今井:それは思う。
森山:(笑)。
今井:「いい音で録れた」と言われても...みたいなところはあるかもしれないですね(笑)。
森山:そうですよね。僕ももちろん始める前は同じように「何が面白いの?」状態だったし、フィールドレコーディングの面白さみたいなのを人に伝えるのってすごく難しいなって思ってきたんですよ。なので、今回この特集をさせてもらうということで、なるべく言葉で伝えられるように色々考えてみたんです。
それでようやくなのですが、「フィールドレコーディングって何?」を僕なりに答えさせてもらうと、まず、フィールドレコーディングというのは、「音の写真」なんですね。
写真ってみんな日常的に撮ったりするじゃないですか?スマホで撮ったりとか、カメラが趣味の人もいますよね。プロとしてやらている方ももちろんいます。けれど、写真の楽しみを言葉で説明するのって難しくないですか?
写真っていろんな目的とか、面白さとか、関わり方とか、人それぞれ状況それぞれに多様にあると思うんですけど、それと一緒でフィールドレコーディングというのも人それぞれに楽しみ方や感じている面白みがあって、それぞれに目的や意図があるし、逆にこうしないといけないみたいなこともないと思うんですよ。
そういう意味で、「音の写真」というイメージをまずもっていただくことがわかりやすいのかなという風に思っています。
今井:なるほど。じゃあ森山くんにとっては割と日常的な事って感じですかね?
森山:そうですね。僕はミュージシャンなので、ある意味ではプロとして、仕事として、音楽を作るための素材を録ったりとか、音を集めに出かけたりってこともあるんですけど、それはたぶん僕のフィールドレコーディングの10%ぐらいで、残りの90%は、僕がnotプロとして写真を撮るのと同じようなカジュアルさで、持ち歩いている小さなマイクを使って、気になった時に回してみるような。
今井:かっこいいね。音楽家って感じ。
森山:(笑)。馴染みがないことだと思うのでそれをかっこいいと感じるかも知れないのですが、それは音か光かの違いで、皆さんも同じようにやっていることなんじゃないかなと思うんですよね。好きな景色に気付いた時にスマホで撮るとか、良い映画を見た時にパンフレットを写真で撮っておくとか、久しぶりに会った友達と自撮りするとか、あるじゃないですか?
そんな感覚に近いと感じていただきたくて、「音の写真」という言葉を使いました。
もちろん「写真」という言葉にはスタジオで撮るような、例えば家族写真とかアーティスト写真とかも含まれるので、それは「フィールドレコーディング」で言うところのものとはちょっとずれがあるのですが、厳密な言葉の定義というよりは、ざっくりとした実践のイメージや、面白みのポテンシャルは写真と似ているのではないかなと思っています。
つまり、僕たちが「何を面白がっているのか?」というのも、皆さんが写真に感じている面白さと基本的には一緒なんですね。人それぞれであるということも含めて。というのが、僕なりのざっくりとした説明かなと思います。
今井:それで随分と分かりやすくなりましたね。ミュージシャンだし、当然音に興味がある人じゃないですか?でもメロディーとかとまた違うというか、「この音を鳴らして録る」みたいな音階というのではないなというイメージがあるので、どういうところ楽しんでいるんだろう?と思っていたので、とてもよくわかりました。
森山:写真は趣味としてやっている人もいるし、表現、芸術としてやってる人もいるし、当然、研究や何かのアーカイブのためだったり、学術的な目的でも使われてもいますよね。そして多くの人は、日常的に思い出を残すためとか、例えば何かのパスワードを記録しとくためとか、そういう実用的な目的のためにも「写真を撮る」ということをしていることもあると思います。
録音も本来はそうなんですよね。音楽家・ミュージシャンのためのものとか、アーティストのための、もしくは研究者のためのものというイメージが拭えてない気がしてますが、それはフィールドレコーディングのごく一部だと僕は思っています。本当はもっと開かれた、というより何てことないことなのかなと。
70年代ぐらいに生録ブームがあったらしいというのを聞きますが、ご存知ですか?カセットデンスケというポータブルレコーダー、持ち歩けて録音できる機材が流行って、それで電車の音を録ったりとか、鳥の音録ったりとかというのが一時的にブームになったということがあったそうで、それが実際にどのくらいの規模感だったかというのは分かりませんが、でもそういうことからも普通にカジュアルに楽しめるポテンシャルはあるのかなと思っているんですね。
今井:なるほど。
森山:なのでこのシリーズを通して、そういう人が一人増えればいいなという感じで、僕なりの面白さを伝えていきたいなと。
今井:友達を増やしていきたいと。
森山:はい(笑)。友達が増えるといいのって、やっている人口が少ないと機材や環境も開発されづらいんですよね。わかりやすい比較で言うとiPhoneのカメラの性能ってものすごいじゃないですか?どんどん上がっていく。一方iPhoneのボイスメモで収録しようとすると、まずモノラルでしか録れないんですよ。iPhoneには複数のマイクが内蔵されてはいるんですけど、唯一映像を撮る時だけ、設定を変えればステレオで収録できたりするんですけど、音だけをステレオで収録することはできません。
さらに、ボイスメモアプリのモノラル録音の品質も、デフォルトでは、圧縮されてしまう低い設定になっているんですよ。それをわざわざ設定で上げないと、そのポテンシャルすら活かせないと。
今井:映像とボイスメモでは録り方が変わっちゃうんだ。
森山:そうです。それがいかに音だけを録るということが求められていないかという。
ボイスメモを使うのはその名の通りメモ代わりだったり、インタビューの収録といった実用的な用途だけが想定されているんだろうなと。もし仮にフィールドレコーディングが多くの人に楽しまれているものだったら、iPhone1台でそれなりに良い音質でステレオで音を録れるとか、技術的に全然できる話だと思うので、そうなったらいいなみたいな。
まあそこまでは現実的でないとしても、そういう方向に近づいていけば嬉しいなという、そんな気持ちもあります。
今井:なるほど。そのフィールドレコーディングをやってみようって思った時に、必要な機材は、iPhoneだとさっき言ったようにモノラルでしか録れなかったりというのがありますけど、森山くんのフィールドレコーディングする時の機材として使っているのを見たのは、iPhoneのライトニングのところに繋げるマイクとかありましたよね?
森山:そうですね。それが僕がたどり着いた答えなんですけど。
今井:あ、それが答えなんだ!
森山:僕なりの今のところの答えですね。今も持っているんですけど。
僕も最初はよくイメージされるようなTASCAMのレコーダーを使っていて、いくつか買い替えながら使ってきたんです。マイクやスタンドも一緒に持ち運んで、出掛けて行った先で機材をセッティングしてマイクを繋いでということをしてみた時期もあったんですけど。そうやっていくと確かに音質的にはより良く収録できたりするのですが、より良い音質の方がより良い録音なのか、というと必ずしもそうではないと思うんですよね。
それはどういうことかと言うと、また写真の例でいくと、大きな一眼やレンズをいくつも持ち歩く人もいるけど、iPhoneで十分という方もいるじゃないですか?
僕の使っているSHUREのMV88というライトニングで接続できるマイクは、ステレオのコンデンサーマイクで比較的繊細に音が録れるものなのですが、すごく小さいんですね。指くらいの小ささで、なのでずっと鞄に入れっぱなしとか、ポケットに入れっぱなしでも移動できるというのがすごく良くて、僕は普段これを使っています。もう3代目です。
ただ誰にとってもこれがいいよというよりは、やっぱり写真と一緒で、その人にとって良いのが何かというのは違ってくると思います。
今井:僕はいま予想しながら話していたんですけど、「最初はその小さいマイクを使っていました。でもやっぱり本格派なので、今はもっと大きいレコーダーにして録っています」という答えが来ると予想していたんですけど、むしろ小さい方を森山くんは使っているんですね。それを選んだ理由というのは、音質というところではどっちがいいとかありますか?
森山:収録できる音質の"上限"みたいなところを上げようとすると、やはりレコーダーとマイクとか、大きな機材が必要になってくるんですね。もっともっと求めて行くとやっぱりどうしてもまだ小型化されてない機材が必要にもなってくるんですけど、少なくとも"僕が求める音質"で録るとか"最適な形式"で録るというのは十分できるんです。数万円ぐらいの安いものなんですけど。レコーダーとマイクよりも10分の1のサイズで持ち運べるというところが1番の決め手かなと思います。
今井:普段から携帯していて、邪魔にならないという感じですね。
森山:そして思いついた時に録れるというのが大事ですね。充電を気にする必要もなく、ケーブルすら繋がなくて良いですからね。これが今の僕には合っているということです。なので皆さんがもしやってみようかなって思った時に、わざわざマイクとかレコーダーを買う必要すらなくて、iPhoneでもいいと思うんですよ。iPhoneのボイスメモでも。
やっぱりフィールドレコーディングと言うと、何か大層なことのように聞こえがちですけど、全然そんなことないんです。例えば久しぶりに実家に帰った時に家族との会話をちょっと10分ぐらい回しといてみるとかするんですよ。それを一週間後とか、聴き返してみるとそれだけでもすごく面白いと思います。
「映像でいいじゃん」、「映像の方がもっとありありと、表情とか動きも残せるじゃん、音も同時に録れるし」と思うかも知れませんが、そのあたりの映像との比較とかについては詳しくは次回に話したいんですけど、音だけで録ってほしい理由をいくつか簡単に紹介しておきます。
まず、映像を撮るとどうしても明確な"枠"が発生しますよね。画角、フレームというのがあるので、映っていない(映さなかった)部分というのは映せないんですよね。でも音というのは性質上、どうしても360度の音が入っちゃうんですね。もちろん一点を狙ってを録るという事も出来るんですけど、その境界は映像や写真に比べるとすごく緩やかで、「この音だけを録る」もしくは「この音は録らない、入れない」ということはなかなか難しいんですね。iPhoneとかだとなおさらそうなんですけど。そして、その映像が作る枠の存在が、聴く音、聴こえる音にも強く影響してしまいます。
ということがあったりとか、他には、カメラを向けているとか、向けられているというのはすごく人の行動とか思考を変えると思うんですよ。
今井:たしかに意識しちゃうよね。
森山:例え家族など親しい仲であっても、iPhoneのカメラを向けて構えられていたら喋り方とか喋る内容って変わってしまうと思うんですね。それが良い悪いというよりは、何かしら影響するわけですね。カメラが無い中で突然ポーズとってみたりとかしないですもんね。
一方、例えばiPhoneを録音状態にしてどこかその辺に置いておいた場合、数分経てばみんなそのことを割と意識しなくなるんですね、経験上。収録されているということを忘れて"普段の会話"みたいなのを普段の会話のまま残しておけるとか、すごく些細な出来事とかが起こったりするんですよ。カメラを構えられている中では、些細なことは起きづらいですよね。
そういう部分も、僕の中ではすごく"音だけ"ならではの面白みの一つかなという風に感じています。
今井:なるほど。ちなみにいつ頃から興味を持って録ろうと思い始めたというか、マイクをいつも持ち歩くみたいなことをやっているんですか?
森山:そうですよね、よくぞ聞いていただきました(笑)。そのきっかけの話をしておかないとですね。そのきっかけを話す前にこの辺りで1曲聴いていただこうかなと思います。このコーナーをやらせていただくきっかけとなった、「INTO THE WILD」という吉田博さんと吉田遠志さんという版画家の方の展覧会が長野の松本で行われていたんですが、そのBGMを制作しまして。実際はとても長いのですが、一部を抜粋してお送りしたいなと思います。どんなところにフィールドレコーディングの音が使われているかとかちょっと気にしながら聴いていただけると嬉しいなと思います。それではどうぞ。
「INTO THE WILD」BGMの視聴はradikoタイムフリーでお聴きください!
森山:お送りしているのは「INTO THE WILD」BGMです。
先ほど今井さんに聞いていただいたフィールドレコーディングを始めたきっかけ、そのあたりを話していきたいなと思っています。最初にそのフィールドレコーディングというよりも、楽器や歌だけじゃない音を録ることを意識的にしたのは大学2年生の頃のゼミの一環だったんですね。
今井:東京藝術大学のゼミですね。藝大在学中もいろんな音の研究というか実験というか、そういうことをやっているのはチラチラ聞いていましたね。
森山:そうですよね。作品制作を今井さんにちょっと手伝ってもらったこともありました。
そんな中で大学2年生の時に、"ミュージックコンクレート"の作品を作ったんです。この"ミュージックコンクレート"って何だ?ということなんすけど、一応概要をお伝えすると1948年頃に始まった音楽の概念というか、ピエール・シェフェールという人がいて、その人がコンセプトを提唱したんですけども。具体音楽って訳されたりするんですね、"コンクレート"というのは"具体的な"とか"具象の"という意味があって。
簡単に言うと現実に鳴っているあらゆる音、先ほどイメージしてもらったようなフィールドレコーディングで録りそうな音も含めて、車の音とか、人の喋り声や笑い声とか、川の音とかなんでもいいんですけど、そういう現実の具体的な音を録音して加工して音楽作品にするというものです。
今となってはそれだけで割と普通に何となくのイメージがつきそうですけど、それまでの音楽といえば器楽曲、声楽曲、電子音楽含め、楽譜に記され演奏されるような"抽象的な"発想が中心だったわけで、そんな中で録音技術の発達とともに生まれたものなんですね。
それまで「音楽」という言葉にイメージされていた「五線譜に記されて楽器や人の声で演奏される音楽」や「シンセサイザーでサイン波から作っていく音楽」みたいなものはとても抽象的なものなわけですね。それに対する「具体的な音楽」という発想というか、具体的な音、抽象化されていない音について考える、耳を傾ける、そういう音楽を考えるというようなところに"ミュージックコンクレート"のアイデアがあります。
一般的に一番知られているものでいくと、The Beatlesの「Revolution 9」というサウンドコラージュみたいな、あの曲をイメージしてもらえるといいかもしれません。あの曲は厳密に"ミュージックコンクレート"ではないと思うんですけども、"ミュージックコンクレート"の手法を使った曲ですね。
この"ミュージックコンクレート"から、例えばいまで言うサンプリングという発想に繋がったりしているんですね。そういう意味ではヒップホップの先祖も、もしかしたらここと言えるかもしれないし、現代のさまざまなポピュラーミュージックにも影響を与えている概念だと思います。
それで、話を戻しますが、その作品をゼミの一環で作ったんですよ。その時は先ほど話した初代のTASCAMのレコーダーを使っていたんですけども、それでいろんな音を録り始めたんですね。そのときは水の音をテーマにした作品を作ったので、家の近所の川に行ったりとか、自宅のトイレを流してマイクで音を録ったりとか、雨の音とか、水の音というのをいろいろ録って、それを組み替えたり加工したりして1つの曲を作りました。
ただ、その時すぐにフィールドレコーディングにはまったってわけではなくて、そのときに"具体音を録る"ということが意識の中にまず入ってきて。そういうことを意識するようになって、その中で様々な音楽や作品に触れていくうちに、「あ、ポップスにもめちゃくちゃ使われているな」とか「この作品でも使っているんだ」とかそういうことが段々積み重なってきて。それからなんとなくこうたまにレコーダーを持っていったりとか。
今井:それに気づくようになってきたんだね。
森山:そうですね。そういう耳が育ってきたというのもあって、それで面白さを感じてきて日常的にマイクを持ち歩くようになって、やがてマイクが小さくなっていきました。その日常的にマイクを持ち歩き始めたのが2017年ぐらいです。
さっきもお話したんですけど、僕の場合は音を録りに行くためにどこかに行ったりとか、マイクをしっかりセッティングしたりというのはせいぜい10%ぐらいのもので、基本的には日常の中で気が向いたらマイクを取り出して録音ボタンを押すという感じなんです。
アーティストの中でもフィールドレコーディング自体を作品のコンセプトにというか、フィールドレコーディングありきでの作品制作をされている方ももちろんたくさんいて、そういう作品も面白いもの多いんですが、僕はそうではなく、もっと趣味のようにでカジュアルに取り組んできたという感じです。
今井:なるほどね。今の"ミュージックコンクレート"の話は藝大生になった気分になれますね。
森山:(笑)。僕もそんなに詳しいわけではないのであまり正確ではないかもしれません。気になった方は改めて調べてみてくださいね。
でもせっかくなのでその話をもう一歩踏み込んでしますと、先ほども言いましたがミュージックコンクレートは、ピエール・シェフェールというパリの作曲家であり研究者でもある方を中心に生まれた「考え方」なんですね。以前、アンビエント回をこのRoom Hでもやりましたが、アンビエントミュージックという概念をブライアン・イーノが提唱したように、そのコンセプトや背景から、音楽にまつわる様々なことを考えるきっかけにもなると思います。
例えば、"具体音"、"具体音楽"ということを考え始めると、「音楽って抽象的なものだったんだ」ということにより深く気づけると思うんですよ。例えば五線譜に記された音楽って、300年前に演奏されたとしても、いま演奏されたとしても同じ作品、同じ曲ですよね。もしくは僕らのようなポップスだとしても、数年前に出した楽曲をリアレンジして今年出すというのも、同じ曲ですよね。まるっきり音は違う、波形としてみた時に全く違うものだとしても、同じ楽曲だと認識して皆さんが楽しむじゃないですか?他の人の作品のカバーでもそうです。
それができるのは、やっぱり「音楽を作る」ということが、「抽象的なものを作る」ことだからですよね。逆に抽象的なものを作るのって音楽以外だと結構難しいというか、それが出来るものって少なくて、例えば絵画とかで同じ対象を同じ構図で別の人が描いたとしても、それは完全に違う作品か、もしくは"偽物"や"オマージュ"じゃないですか?たとえ同じ作者が自分の昔の作品を似たように描いたとしても、それは違うものと捉えられたりすると思うんですね。ですが、音楽はそうはならない。具体音楽という言葉を意識すると、音楽の持つ抽象性をより実感できるなと思います。
今井:なるほど。非常に深い話ですね。絵と音楽の違いというのは、そう言われてみないとあんまり考えないですけど、たしかになと思いました。
森山:そうですよね。所謂著作権印税の対象に、編曲、アレンジの要素が含まれていないというのも、おそらくそういうところもあると思うのですが。現代においては編曲も含めた方がいいんじゃないかなとは思っているんですけども。でもさっきの話で、最後に残るものって、やっぱりそういう音符の部分になりますよね。その曲がギリギリその曲であるところまで削ぎ落としていくと、多くの曲では、そういうところが残ると思います。それを変えちゃうとその曲じゃないという。そういうことが理屈になっているんだろうなとは思いますが。
今井:なるほどね。
森山:抽象的なものを生み出すことができるというのはすごく素晴らしいことだと思います。
『視線』収録曲「またあした」について
今井:odolの楽曲の中に、森山くんがフィールドレコーディングした音を入れているという曲が存在するじゃないですか?僕が認識しているのは2017年にリリースした『視線』というEPに収録されている「またあした」という曲。イントロから聴こえる「ザザザ」というか。
森山:あのリズムの部分ですね。
今井:そうそう。聴いたことのないリズムが来たなという風にリスナーの方も聴いていただけるとわかるかと思うんですけども、あれはどこで録ったものですか?
森山:あれは宮崎県にある祖父母の家です。砂利の庭で歩いている足音が使われています。その元の音があるので、それを1回聴いてみますか。
森山:というように、完全に足音ですよね。
この「またあした」という曲はたぶんodolの楽曲の中でも1番分かりやすくフィールドレコーディングの音が使われているんじゃないかなと思います。むしろ、この曲自体がそのフィールドレコーディングから生まれたと言っても過言ではなくて。
実はこのフィールドレコーディングはその前後も何十分も続いていて、祖母との何気ない会話、「そこに石が詰まっちゃうから大変なのよね」みたいなこと言ってる会話とか、家の中でその日流れていたラジオのニュース音声や、引き戸タイプの玄関のドアをガラガラと開けて家の外に出る音などなど...が収録されているんですよ。
つまり、あらかじめ曲に使おうと思ってサンプリング的に足音を録ったものではなくて、2017年の録音なのですが、その頃は僕がフィールドレコーディングにハマり始めた時なので、ひたすら色々なタイミングで回している中の一つでした。
宮崎の祖父母の家の庭というのは、僕にとって子供の頃にその庭で遊んでいた記憶っていうのがすごく染み付いているんですね。そんな話をしながら、砂利の庭での足音というのを曲のリズムに使ってみたんだって話をミゾベにして、そういう幼少期の遊んでいるイメージを歌詞の発想の元にしたり、あとは「またあした」というタイトルをつけてくれて、こういう曲になっていきました。ということで1回聴いていただきましょう。
森山:これは気づけたのではないですかね?
今井:そうですね。印象的ですもんね。たぶんここまでフィーチャーされている、楽器以外の音がフィーチャーされているというのも珍しいから、リスナーの方も「この曲に入ってるんじゃないかな」って気付きやすいのかなと思ったりします。僕もこれは当時から森山くんからも聞いていましたし、インタビューでも話していました。でもどうやら他の曲にも入っているようなので、それを教えてもらいたいんですけども、今日はちょっと時間もなさそうですので、まず今日はどのアルバムに入っているかだけ教えてもらえますか?
森山:この「またあした」は2017年リリースじゃないですか?その頃がやっぱりフィールドレコーディングが個人的にホットだったので、その周辺の楽曲に多いですね。
今井:そうすると2018年の『往来するもの』ですね。このアルバム9曲入りで、そう言われると怪しい曲がいっぱいありますね。
森山:(笑)。いっぱいあると思います。多分4〜5曲入っていますね。
今井:やっぱり!1曲じゃないだろうなとは思っていましたね。ちょっとこれはリスナーの皆さんもどの曲なのかぜひ予想していただけたらと思います。
森山:そうですね、当たるかな...。次回は録った音と曲を聴き比べながら紹介してみようかなと思います。ということですごくたっぷり話させていただいたんですが、今日はフィールドレコーディングの概要と、僕の出会いと、それから「音の写真」という話からどういうところが面白いと感じているのかなど、ざっくりとお話ししました。
次回はもうちょっと踏み込んで、音ならではの面白さとか、odolの楽曲での具体的な使われ方とかそういうところもお話できたら嬉しいなと思っております。
今井:もうこれは完全に講義ですよ。大学の授業を聞かせて頂いているようで、永久保存版ですね。
森山:いやいやいや(笑)。好き勝手喋っているだけなので、発言には責任を持てませんので...気軽に聴いていただけたら嬉しいなと思います。
Photo by Shaikh Sofian
6月1日(水) オンエア楽曲
odol「幸せ?」森山公稀「into the wild」
odol「またあした」
ヨシ ホリカワ「虹」
番組へのメッセージをお待ちしています。
Twitter #fmfukuoka #RoomH をつけてツイートしてください。MC3人ともマメにメッセージをチェックしています。レポート記事の感想やリクエストなどもありましたら、#SENSA もつけてツイートしてください!
RADIO INFORMATION
FM 福岡「Room "H"」
毎週月曜日から金曜日まで深夜にオンエアされる、福岡市・警固六角にある架空のマンションの一室を舞台に行われ、次世代クリエイターが様々な情報を発信するプログラム「ミッドナイト・マンション警固六角(けごむつかど)」。"203号室(毎週水曜日の26:00~26:55)"では、音楽番組「Room "H"」をオンエア。九州にゆかりのある3組のバンド、ユアネスの黒川侑司、松本大、odolの森山公稀が週替わりでMCを務め、本音で(Honestly)、真心を込めて(Hearty)、気楽に(Homey) 音楽愛を語る。彼らが紹介したい音楽をお届けし、またここだけでしか聴けない演奏も発信していく。放送時間:毎週水曜日 26:00~26:55
放送局:FM福岡(radikoで全国で聴取可能)
番組MC
黒川侑司(ユアネス Vo.&Gt.)
福岡で結成された4人組ロックバンド。感情の揺れが溢れ出し琴線に触れる声と表現力を併せ持つヴォーカルに、変拍子を織り交ぜる複雑なバンドアンサンブルとドラマティックなアレンジで、
詞世界を含め一つの物語を織りなすような楽曲を展開。
重厚な音の渦の中でもしっかり歌を聴かせることのできるLIVEパフォーマンスは、エモーショナルで稀有な存在感を放っている。2021年12月1日に初のフルアルバム「6 case」をリリース。
オフィシャルサイト/ @yourness_on/ @yourness_kuro
松本大
2006年に長崎県で結成。バンド名「LAMP IN TERREN」には「この世の微かな光」という意味が込められている。松本の描く人の内面を綴った歌詞と圧倒的な歌声、そしてその声を4人で鳴らす。聴く者の日常に彩りを与え、その背中を押す音楽を奏でる集団である。
2021年12月8日にEP「A Dream Of Dreams」を配信リリース。
オフィシャルサイト/ @lampinterren/ @pgt79 / @lampinterren
森山公稀(odol Piano&Synth.)
福岡出身のミゾベリョウ(Vo.)、森山公稀(Pf./Syn.)を中心に2014年東京にて結成した3人組。ジャンルを意識せず、自由にアレンジされる楽曲には独自の先進性とポピュラリティが混在し、新しい楽曲をリリースする度にodolらしさを更新している。
2022年3月16日に「三月」を配信リリース。
オフィシャルサイト/ @odol_jpn/ @KokiMoriyama