- TOPICS
- FEATURE
2022.06.01
未来のシーンを創造する注目の才能が集結、『Song For Future Generation』
5月18日、リキッドルームとFRIENDSHIP.による共同イベント『Song For Future Generation』が開催された。コロナの感染拡大による延期・中止を経て、ようやく開催にたどり着いたこのイベントには、FRIENDSHIP.がディストリビューションするジャンルも形態もバラバラな5組が出演し、FRIENDSHIP.のキュレーターを務めるTommyと片山翔太がDJを担当。次世代を担う可能性を秘めた気鋭のアクトの共演に、たくさんのオーディエンスが詰めかけた。
トップバッターの宗藤竜太はステージ中央の椅子に腰をかけ、おもむろにアコースティックギターを奏で始めると、"いじわる"からライブがスタート。この日の他の出演者は基本バンドスタイルなのに対し、彼はシンプルな弾き語りではあるものの、曲ごとに細かくチューニングを変えながらつま弾かれるさりげなくも驚きのあるコードの使い方からは、ジャズやクラシックをはじめとした彼の豊かなバックグラウンドが感じられる。また、朴訥としていながらもソウルフルな温かみのある歌唱もいいし、曲をシームレスに繋げることで立ち現れる物語性にも惹かれるものがある。
長谷川白紙や浦上想起といった音楽家ともボキュラブラリー的なリンクが感じられつつ、現状では音源含めあくまで生々しい弾き語りのスタイルを維持しているが、DTMが一般的になった時代における弾き語りの一回性は何とも贅沢な時間に感じられる。途中のMCではイベントに対して、「やっとできてよかった」「待ち遠しかった」と話し、この日最後に「特別な思い入れがある曲」と言って披露されたのは、ファーストアルバム『くるみ』の最後に収録されている"夜に驚く君に"。他の曲よりも少し熱量高めに、ギターをかき鳴らし、声を張り上げたこの曲にどんな背景があるのかはわからないが、想いを乗せた歌とともに空間と時間を共有するこうした夜が、これからまた何度となくやってくることを願わずにはいられない。
2番手はこの春に大阪から上京し、シンセサイザーにゆうらん船の伊藤里文を迎えた新編成での初ライブとなったBROTHER SUN SISTER MOON。これまではサポートベースを迎えていたが、惠愛由が主にエレキベースを弾いてドラムとともにボトムを支え、深いリヴァーブのかかったギターとシンセが独自のサイケデリアを作り出していく。惠翔兵と愛由の兄妹による記名性の強い歌声もさることながら、ライブではドラマーの岡田優佑の存在感も大きく、曲によってサンプリングパッドも使いつつ、決して派手ではないものの、特徴的なループフレーズを叩き出す。そのフィジカルな高揚感とノスタルジックな甘いメロディーとの組み合わせは特別なものだ。
"A Whale Song"や"Try"といったファンにはお馴染みの定番曲を聴かせつつ、翔兵がMCで「新しくバンドを組んだみたい」「変化の時期を楽しんでいます」と語ったように、バンドは心身共にフレッシュな状態だと言える。ゆうらん船とはUSインディ経由の歌心と音響的な実験性のバランスという意味で非常に親和性があり、伊藤ともこれからライブを重ねることによって、新たな可能性を見つけていくに違いない。ベースのループでジワジワと盛り上がる新曲から、ひずんだベースが雄大な曲調を盛り上げるラストの"I Said"まで、愛由のプレイもすでに堂に入ったものがあり、そのポテンシャルの高さを十分に感じさせるステージだった。
3番手はShe Her Her Hersのドラマーであり、TENDRE、LUCKY TAPES、The fin.、奇妙礼太郎など、様々なアーティストのサポートを務める松浦大樹が「歌うソロプロジェクト」としてスタートさせたsaccharin。この日はサックスやパーカッションを含む6人がサポートメンバーとして参加し、音源にはTENDRE、高木祥太、小西遼、AAAMYYYらも参加と、松浦の幅広い交友関係を生かしたアーティストコレクティブ的な印象もあったが、実際のライブはそんなイメージをいい意味で裏切るものであった。
ステージの中央にはスナックの看板のような照明が置かれ、グラスを片手にゆらゆらと揺れる松浦の姿は、お店のハコバンを従えた流しのシンガーのよう。自らの心の内にたまった言葉をSNSに吐き出すのではなく、「歌」として吐き出すことを選び、その方法として松浦にとって最善だったのが、仲間とともに音を鳴らすことだった。「飲み屋でたまたま隣に座った客くらいの距離感で」「コロナ禍で歌い始めて......歌っていうか、心象を叫んでるだけ」といった言葉がそんな印象をより強め、特に後半で披露された"咽ぶ"では、松浦の内面に少し触れられたような気がした。
もちろん、ジャズ、ソウル、ヒップホップなどを横断するアレンジと演奏はレベルが高く、特に角田隆太(モノンクル)と大井一彌(DATS、yahyel)のリズム隊は強烈。「源氏物語」をモチーフにしたという"Kagaribi"の松浦いわく「尺八っぽいサックス」や、"Shisoukaseki"に一瞬出てくる祭り囃子のイントロは、TempalayやBREIMENの近作とのリンクが感じられたりと、やはりアーティストコレクティブ的な印象もある。何にしろ、ちょっとぶっきらぼうなMCの中に確かな想いの強さと人間臭さが感じられるsaccharinの表現が、これからどんな風にたくさんの人へとリーチして行くのかとても楽しみだ。
4番手のNIKO NIKO TAN TANと5番手のgatoは、映像担当をメンバーに含む編成とミクスチャーな音楽性から比較的近い立ち位置のバンドというイメージもあったが、続けてライブを見るとその印象はむしろ両極端なようにも感じた。
NIKO NIKO TAN TANはシンセやPCなどを操るボーカルのOchanとドラマーのAnabebeがステージに立ち、同期を用いながらも2人だけで楽曲を再現していくのが特徴で、ブレイクビーツ、ヒップホップビート、シャープな4つ打ちなどをときにフリーキーに、ときにロックに叩き出すAnabebeのプレイが際立つ。一方、Ochanの歌うメロディーはコロナ禍でなく声が出せる環境だったらシンガロングが起こりそうな非常にキャッチーなもので、特に序盤に披露された新曲"The Dawn"と"Wonder"にはその方向性が顕著に表れ、彼ら独自のミクスチャーなオルタナティブミュージックを絶妙なバランスで「J-POP」へと昇華させ、それに挑む姿勢が見て取れた。
サカナクションからmillennium paradeに至るまで、映像表現を駆使しつつ、日本のメジャーシーンで大衆性と先鋭性の両方を突き詰めてきた先達の系譜に連なりつつ、彼らは「今の時代に不可欠な表現」として映像とのリンクを試みている印象もある。アシッドなテイストと浮遊感のある声ネタに、ダンスをする人のユーモラスな映像を組み合わせた"同級生"も、田名網敬一的なサイケデリックかつカラフルなアニメーションとともに披露された"パラサイト"も、音楽と映像が等価のバンドならではの相乗効果が確かに感じられた。初ライブが2019年の7月で、そこからほどなくしてコロナ禍に突入してしまったことを思えば、これからの彼らの進化が期待される。
この日のトリを務めたgatoはステージに5人のメンバーが並び、VJとともにエモーショナルなステージを展開。一曲目の"teenage club"こそメロディアスな楽曲で、メンバーも弦楽器を演奏していたが、2曲目の"ARK"以降はほとんど竿も持たず、手元の機材をいじりながら体を揺らし、ミニマルテクノ、インダストリアル、フューチャーベース、トラップなどを横断するドープなステージを作り出していく。中盤では全員でジャンプをしたり、ヘドバンをしたりというパートもあったが、基本的にはあくまで音と映像の力でトランス状態を作り出していく印象。たとえば、彼らのステージを見ていて、日本における「バンド×VJ」の先駆けであるdownyを連想したりもしたのだが、downyが他のバンドとは異なる、オルタナティブな表現としてVJを選んだのと同様に、彼らも異質にして異端なあり方が非常にクールだ。
高速のハードミニマル"不逞"以降のライブ後半は特に圧巻。もはやダンスミュージックというよりもデジタルハードコアと言った方が近く、ステージから音の塊が投げつけられるかのようで、ほぼ真っ暗に近いライティングがその凶暴性をさらに高める。ラストの"ACID"ではフロアタムを打ち鳴らし、ノイズギターがかき鳴らされ、破壊的なステージを展開。そんな彼らに対し、『Song For Future Generation』と銘打たれた一夜で最大の拍手が贈られたフロアを見つめながら、僕の頭の中にはオルタナの始祖であるソニック・ユースの名フレーズ「Chaos is future(混沌こそ未来)」が浮かんでいた。
文:金子厚武
撮影:Yoshiaki Miura
2.梅
3.少年少女
4.幸せ
5.ライムライト
6.庭の水やり
7.夜に驚く君に
2. In Front of Me
3. All I Want
4. A Whale Song
5. Try
6. 新曲
7. I Said
2.TAION
3.Kagaribi
4.Shisoukaseki
5.咽ぶ
6.MK
2.Wonder
3.多分、あれはFly
4.水槽
5.同級生
6.パラサイト
2.ARK
3.××(check,check)
4.miss u
6.dada
7.不逞
8.ZOMBIEEZ
9.ACID
トップバッターの宗藤竜太はステージ中央の椅子に腰をかけ、おもむろにアコースティックギターを奏で始めると、"いじわる"からライブがスタート。この日の他の出演者は基本バンドスタイルなのに対し、彼はシンプルな弾き語りではあるものの、曲ごとに細かくチューニングを変えながらつま弾かれるさりげなくも驚きのあるコードの使い方からは、ジャズやクラシックをはじめとした彼の豊かなバックグラウンドが感じられる。また、朴訥としていながらもソウルフルな温かみのある歌唱もいいし、曲をシームレスに繋げることで立ち現れる物語性にも惹かれるものがある。
長谷川白紙や浦上想起といった音楽家ともボキュラブラリー的なリンクが感じられつつ、現状では音源含めあくまで生々しい弾き語りのスタイルを維持しているが、DTMが一般的になった時代における弾き語りの一回性は何とも贅沢な時間に感じられる。途中のMCではイベントに対して、「やっとできてよかった」「待ち遠しかった」と話し、この日最後に「特別な思い入れがある曲」と言って披露されたのは、ファーストアルバム『くるみ』の最後に収録されている"夜に驚く君に"。他の曲よりも少し熱量高めに、ギターをかき鳴らし、声を張り上げたこの曲にどんな背景があるのかはわからないが、想いを乗せた歌とともに空間と時間を共有するこうした夜が、これからまた何度となくやってくることを願わずにはいられない。
2番手はこの春に大阪から上京し、シンセサイザーにゆうらん船の伊藤里文を迎えた新編成での初ライブとなったBROTHER SUN SISTER MOON。これまではサポートベースを迎えていたが、惠愛由が主にエレキベースを弾いてドラムとともにボトムを支え、深いリヴァーブのかかったギターとシンセが独自のサイケデリアを作り出していく。惠翔兵と愛由の兄妹による記名性の強い歌声もさることながら、ライブではドラマーの岡田優佑の存在感も大きく、曲によってサンプリングパッドも使いつつ、決して派手ではないものの、特徴的なループフレーズを叩き出す。そのフィジカルな高揚感とノスタルジックな甘いメロディーとの組み合わせは特別なものだ。
"A Whale Song"や"Try"といったファンにはお馴染みの定番曲を聴かせつつ、翔兵がMCで「新しくバンドを組んだみたい」「変化の時期を楽しんでいます」と語ったように、バンドは心身共にフレッシュな状態だと言える。ゆうらん船とはUSインディ経由の歌心と音響的な実験性のバランスという意味で非常に親和性があり、伊藤ともこれからライブを重ねることによって、新たな可能性を見つけていくに違いない。ベースのループでジワジワと盛り上がる新曲から、ひずんだベースが雄大な曲調を盛り上げるラストの"I Said"まで、愛由のプレイもすでに堂に入ったものがあり、そのポテンシャルの高さを十分に感じさせるステージだった。
3番手はShe Her Her Hersのドラマーであり、TENDRE、LUCKY TAPES、The fin.、奇妙礼太郎など、様々なアーティストのサポートを務める松浦大樹が「歌うソロプロジェクト」としてスタートさせたsaccharin。この日はサックスやパーカッションを含む6人がサポートメンバーとして参加し、音源にはTENDRE、高木祥太、小西遼、AAAMYYYらも参加と、松浦の幅広い交友関係を生かしたアーティストコレクティブ的な印象もあったが、実際のライブはそんなイメージをいい意味で裏切るものであった。
ステージの中央にはスナックの看板のような照明が置かれ、グラスを片手にゆらゆらと揺れる松浦の姿は、お店のハコバンを従えた流しのシンガーのよう。自らの心の内にたまった言葉をSNSに吐き出すのではなく、「歌」として吐き出すことを選び、その方法として松浦にとって最善だったのが、仲間とともに音を鳴らすことだった。「飲み屋でたまたま隣に座った客くらいの距離感で」「コロナ禍で歌い始めて......歌っていうか、心象を叫んでるだけ」といった言葉がそんな印象をより強め、特に後半で披露された"咽ぶ"では、松浦の内面に少し触れられたような気がした。
もちろん、ジャズ、ソウル、ヒップホップなどを横断するアレンジと演奏はレベルが高く、特に角田隆太(モノンクル)と大井一彌(DATS、yahyel)のリズム隊は強烈。「源氏物語」をモチーフにしたという"Kagaribi"の松浦いわく「尺八っぽいサックス」や、"Shisoukaseki"に一瞬出てくる祭り囃子のイントロは、TempalayやBREIMENの近作とのリンクが感じられたりと、やはりアーティストコレクティブ的な印象もある。何にしろ、ちょっとぶっきらぼうなMCの中に確かな想いの強さと人間臭さが感じられるsaccharinの表現が、これからどんな風にたくさんの人へとリーチして行くのかとても楽しみだ。
4番手のNIKO NIKO TAN TANと5番手のgatoは、映像担当をメンバーに含む編成とミクスチャーな音楽性から比較的近い立ち位置のバンドというイメージもあったが、続けてライブを見るとその印象はむしろ両極端なようにも感じた。
NIKO NIKO TAN TANはシンセやPCなどを操るボーカルのOchanとドラマーのAnabebeがステージに立ち、同期を用いながらも2人だけで楽曲を再現していくのが特徴で、ブレイクビーツ、ヒップホップビート、シャープな4つ打ちなどをときにフリーキーに、ときにロックに叩き出すAnabebeのプレイが際立つ。一方、Ochanの歌うメロディーはコロナ禍でなく声が出せる環境だったらシンガロングが起こりそうな非常にキャッチーなもので、特に序盤に披露された新曲"The Dawn"と"Wonder"にはその方向性が顕著に表れ、彼ら独自のミクスチャーなオルタナティブミュージックを絶妙なバランスで「J-POP」へと昇華させ、それに挑む姿勢が見て取れた。
サカナクションからmillennium paradeに至るまで、映像表現を駆使しつつ、日本のメジャーシーンで大衆性と先鋭性の両方を突き詰めてきた先達の系譜に連なりつつ、彼らは「今の時代に不可欠な表現」として映像とのリンクを試みている印象もある。アシッドなテイストと浮遊感のある声ネタに、ダンスをする人のユーモラスな映像を組み合わせた"同級生"も、田名網敬一的なサイケデリックかつカラフルなアニメーションとともに披露された"パラサイト"も、音楽と映像が等価のバンドならではの相乗効果が確かに感じられた。初ライブが2019年の7月で、そこからほどなくしてコロナ禍に突入してしまったことを思えば、これからの彼らの進化が期待される。
この日のトリを務めたgatoはステージに5人のメンバーが並び、VJとともにエモーショナルなステージを展開。一曲目の"teenage club"こそメロディアスな楽曲で、メンバーも弦楽器を演奏していたが、2曲目の"ARK"以降はほとんど竿も持たず、手元の機材をいじりながら体を揺らし、ミニマルテクノ、インダストリアル、フューチャーベース、トラップなどを横断するドープなステージを作り出していく。中盤では全員でジャンプをしたり、ヘドバンをしたりというパートもあったが、基本的にはあくまで音と映像の力でトランス状態を作り出していく印象。たとえば、彼らのステージを見ていて、日本における「バンド×VJ」の先駆けであるdownyを連想したりもしたのだが、downyが他のバンドとは異なる、オルタナティブな表現としてVJを選んだのと同様に、彼らも異質にして異端なあり方が非常にクールだ。
高速のハードミニマル"不逞"以降のライブ後半は特に圧巻。もはやダンスミュージックというよりもデジタルハードコアと言った方が近く、ステージから音の塊が投げつけられるかのようで、ほぼ真っ暗に近いライティングがその凶暴性をさらに高める。ラストの"ACID"ではフロアタムを打ち鳴らし、ノイズギターがかき鳴らされ、破壊的なステージを展開。そんな彼らに対し、『Song For Future Generation』と銘打たれた一夜で最大の拍手が贈られたフロアを見つめながら、僕の頭の中にはオルタナの始祖であるソニック・ユースの名フレーズ「Chaos is future(混沌こそ未来)」が浮かんでいた。
文:金子厚武
撮影:Yoshiaki Miura
宗藤竜太 setlist
1.いじわる2.梅
3.少年少女
4.幸せ
5.ライムライト
6.庭の水やり
7.夜に驚く君に
BROTHER SUN SISTER MOON setlist
1.Time2. In Front of Me
3. All I Want
4. A Whale Song
5. Try
6. 新曲
7. I Said
saccharin setlist
1.KAISIN2.TAION
3.Kagaribi
4.Shisoukaseki
5.咽ぶ
6.MK
NIKO NIKO TAN TAN setlist
1.The Dawn2.Wonder
3.多分、あれはFly
4.水槽
5.同級生
6.パラサイト
gato setlist
1.teenage club2.ARK
3.××(check,check)
4.miss u
6.dada
7.不逞
8.ZOMBIEEZ
9.ACID