SENSA

2021.11.28

Suhm「Suhm1」──眠れぬ夜を共にする短編集のような趣を持つ1stアルバム

Suhm「Suhm1」──眠れぬ夜を共にする短編集のような趣を持つ1stアルバム

元Kidori Kidoriのマッシュこと塔本圭祐のソロプロジェクト・Suhmから1stアルバム「Suhm1」が届けられた。UKロック、パンク、スカ、ダブ、アフロビートなど雑多な音楽を取り込んだKidori Kidoriのサウンドに比べ、本作で展開されるサウンドは極めてシンプルかつクワイエット。あえてカテゴライズするならば、いわゆる"ベッドルームポップ"と呼ばれるものになるのであろうか。バンド時代のヒリヒリするようなヴォーカリゼーションは影を潜め、自らが手がけたトラックに乗せて届けられるその歌声は穏やかで、どこか寂し気で、そして甘やかでさえもある。

ボン・イヴェール、ジェイムス・ブレイク、タイラー・ザ・クリエイター、マッシヴ・アタックといったアーティストの楽曲にインスピレーションを受けながら、コロナ禍の中、自宅スタジオで粛々と制作が進められたという本作。ジリジリとしたグリッチノイズと深いエコーが心のざわめきを誘う「僕の死体はジャケにして」、浮遊感漂うエレクトロサウンドに乗せて、つれづれなる日々の思いを気怠そうに歌う「あわ、くらげ、ニコチン」、"悪夢的"とも表現したい不穏な雰囲気漂うインスト「不安」、高揚感と焦燥感がない混ぜになったディスコティックな「ナイトミュージック」など、様々な楽曲が収められたこのアルバムを濃霧のように深く覆うのはメランコリックな夜のイメージだ。

前述の「僕の死体は~」や、Helsinki Lambda Clubの橋本薫をラッパーとして迎えた「不死身でいて」といった楽曲のタイトルが暗示するように、本作を繰り返し聴いていると、塔本が抱える"死生観"のようなものが通奏低音のように流れていることに気付かされる。コロナ禍以降、いや、それ以前から混迷を極める現代社会で、いかにして生き / 表現活動を続けていくのか──それは表現者としての核たる部分を追求すべく、自らの心の深淵に迫ることで彼が到達した新たな境地なのかもしれない。本作に収められた8篇の楽曲は眠れぬ夜を共にする短編小説のようでもあり、それらは希望と諦念のはざまから湧き出る様々な感情の粒子を掬い集めて描いた点描画のように狂おしく繊細な美しさをたたえている。

文:望月哲




RELEASE INFORMATION

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Suhm「Suhm1」
2021年11月24日(水)
Format: Digital / LP (¥4,000 tax in)
Label:Bideo Records

Track:
1. 僕の死体はジャケにして
2. あわ、くらげ、ニコチン
3. 5/11
4. 不安
5. わすれてきたこと
6. ナイトミュージック
7. 不死身でいてfeat Kaoru Hashimoto from Helsinki Lambda Club
8. 生活

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PROFILE

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Suhm
シンガーソングライター/トラックメイカー。
7月8日生まれの外国産日本人男性、塔本圭祐によるソロプロジェクト。
粗大ゴミ置き場でギターを拾ったことからキャリアをスタート、メランコリックな楽曲を制作し、自由を求めて音楽活動を行う。

LINK
オフィシャルサイト
@suhm_music
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