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2021.07.01
【読むラジオ】MC:森山公稀(odol) シンセサイザープログラマー松武秀樹と音楽を語る「Room H」 -2021.06.30-
FM福岡で毎週水曜日 26:00~26:55にオンエアしている音楽番組「Room "H"」。九州にゆかりのある3組のバンド、ユアネスの黒川侑司、LAMP IN TERRENの松本大、odolの森山公稀が週替わりでMCを務め、彼らが紹介したい音楽をお届けし、またここだけでしか聴けない演奏も発信していく。
今週のMCは、odolの森山公稀が担当。SENSAでは、オンエア内容を一部レポート!(聴き逃した方やもう一度聴きたい方は、radiko タイムフリーをご利用下さい。)
森山:FM福岡からodolの森山公稀がお送りしているRoom "H"。ここからは@リビングルーム拡大版ということで、さっそく今夜のゲストにご登場していただきましょう。
シンセサイザープログラマーで作曲家・編曲家そしてプロデューサーでもあります、松武秀樹さんです。こんばんは。
松武:こんばんは松武です、よろしくお願いします。
松武秀樹
シンセサイザー・プログラマー / 作編曲 / プロデューサー
20歳から冨田勲氏のアシスタントとして、当時日本には数台しかなかった"モーグ・シンセサイザー"による音楽制作を経験。独立後もシンセサイザー・ミュージックの可能性を追求し続け、 モーグ・シンセサイザー・プログラマーの第一人者としてポップスからCM音楽まで、様々なジャンルのレコーディングにおいて重要な役割を果たす。1978年~1982年にかけてYMOの作品に参加、ワールド・ツアーを含めたライブにも帯同。
1981年には自身のユニットであるLogic System(ロジック・システム)をスタートさせ、数多くのアルバムをリリース。80年代初頭にリリースした代表作『Logic』、『Venus』、『東方快車』は世界中に熱狂的なファンを生み出し、今なお各方面で高い評価を受けている。2017年2月、音楽活動45周年を記念した、CD5枚におよぶアンソロジー的なボックス・セット『LOGIC CHRONICLE』をリリース。翌月には第20回文化庁メディア芸術祭「功労賞」を受賞。
森山:はじめまして、よろしくお願いします。僕はodolというバンドで作曲とピアノを弾いている、森山公稀と申します。今日は松武さんに聞きたいことが本当にたくさんあるんです。
松武:どうしよう(笑)。
森山:なので、ちょっと根掘り葉掘り聞かせていただきたいんですが、まずは松武さんの肩書きについてお伺いしたいです。シンセサイザープログラマーで作曲家・編曲家そしてプロデューサーという風にご紹介させていただいたんですけども、ご本人はどういった肩書きで活動されているんですか?
松武:そうですね、シンセサイザープログラマーっていうのは音色を0から作るというイメージが僕の中にはあるんです。だからこの中から選ぶとするなら、シンセサイザープログラマーですかね。
森山:そうですよね。音楽においてプログラマーっていう言葉を使うと、打ち込みだったりDAWで音符を書いていくイメージが皆さんあるかもしれないですけど、確かにシンセサイザーっていうのはそもそも音響合成機器のことで、電気の信号を音にするもので、松武さんはそれの始祖のようなお方ですもんね(笑)。
松武:いえいえ、ありがとうございます(笑)。
森山:そんなことも含めて、今日は色々と伺っていきたいと思ってます。松武さんは音楽との出会いはどういったものだったんですか?
松武:色んなことがあったんですけども、まずはうちの父親がサックス吹きだったんですよ。フルバンドに所属していて、名前はシャープス&フラッツというバンドなんですけど。そこの初期のメンバーだったんですよね。テナーサックスを吹いていて、家でもサックスの練習をしていたので、子供の頃から楽器は身近にありましたね。
森山:当然のように生まれた頃から楽器がそばにあったっていうことなんですね。
松武:そうですね。オルガンもありましたから、生まれた頃からそういう環境にいたので、音楽との出会いはそういうことになってきますね。
森山:そんな中で松武さんはシンセサイザーと出会っていくわけなんですね。それはどういった出会いだったんでしょうか?
松武:シンセサイザーは量産できる体制が整ったのが1965年ぐらいからなんですよ。僕自身は色んな場所で聴いていたつもりではいたんですけど、決定的だったのは1970年の大阪での万国博覧会でした。当時は高校3年生の時かな、初めて新幹線に乗って行きました。見たかったものは月の石なんですけど、月の石自体は見るのは並んで5時間、見て10秒程度で終わってしまうので。
森山:ニュースで観たことあります(笑)。
松武:そうですよね(笑)。音楽好きの友達と行っていたので、大阪のあるレコード店に行ったんです。お店に入ると聴いたことがない奇妙でキテレツな音がしてるんです。聴いたことがないような。曲はバッハがかかっていて、そのお店の人に「これは何ですか?」と尋ねたら、「Switched on Bach」というレコードを見せてもらって「え!?これ、楽器なんですか?」と聞くと「これはシンセサイザーっていう楽器で演奏してるんだよ」って教えてもらったんですよ。
それから東京に帰ってきて、渋谷にあるYAMAHAの楽器店に探しに行ったんです。そしたらお店の人に「君が見てきた楽器はシンセサイザーっていう楽器で、今ここにあるから見せてあげる」と言われたんです。パンフレットを見せてもらって、そしたらすごく高く積み上がったモジュラーシンセが載っていて、それが鳴っているんだ、と。
実際に見たわけではないですけど、それが初めて聴いたシンセサイザーの音で、やっぱりビックリしましたね。それまでは電気楽器といえば、どうしてもエレキギターやオルガン、あとはエレクトーンぐらいしか聴いたことはなかったので。それが出会いでしたね。
森山:なるほど、そうだったんですね。ここで松武さんセレクトで音楽を紹介していただきたいなと思うんですけども、本日はご自身の音楽の背骨になっている曲を、難しいとは思うんですけど1曲選んでいただきたいなと思います。
松武:誰にしようかなと迷ったんですが、やっぱりこれしかないかなと思って。皆さんが知っている曲で、The Beatlesの「Maxwell's Silver Hammer」をお願いします。
森山:ビートルズを選ばれるのはちょっと意外だったんですが、なぜビートルズを選ばれたんですか?
松武:あの時代ってビートルズは結構早くからシンセサイザーを使っていて、たしかジョージ・ハリスンがモーグ・シンセサイザーを購入されてたんですよね、moog IIIpというものを。僕のはIIIcなんですけど。
森山:ポータブル型の。
松武:そうです、あの持ち運びの簡単なものです。音色作りを誰がやったかわからないですけど、まぁ本人たちがやったんだとは思いますが。
森山:試行錯誤したんでしょうかね。
松武:でも、シンセのまろやかな音と後半から出てくるオブリの柔らかいリードの音、今でもああいう音は素晴らしいと思いますよね。moogらしい音だし。
森山:そうですよね。確かにビートルズは実験音楽とか前衛音楽との繋がりの影響も凄く色濃く出てますよね。
松武:そうですね。多分私が思うに、アメリカはThe Beach Boys、イギリスはビートルズと、両方ともシンセサイザーを使っていて、お互いに切磋琢磨していたんじゃないかなと。ビーチボーイズだと「グッド・ヴァイブレーション」とかがそうなんですけど。両国ともどっちが先にシンセサイザーを使いこなすかみたいな意識はあったと思うんですよ。
森山:面白いですね(笑)。
松武:そういう時代でしたよね。
森山:今日は一つお聞きしたいなと思っていることがありまして、松武さんがシンセサイザーに触れた当時はまだまだシンセは未知の楽器だったと思うんですけど、どういった印象をお持ちでしたか?
松武:最初にシンセサイザーに触れたのが、僕の先生の冨田勲さんの自宅のスタジオだったんです。そこで先生が僕に「松武くん、僕は24時間起きているわけにはいかないから、寝てる間は君が自由にシンセサイザーを使っていいよ」って言ってくれたんですね。それを聞いて僕は驚いてしまって。あの万博で見たものが目の前にあって、それを自由に触れるっていうことは奇跡に近いことじゃないですか。それで寝ずに触らせてもらっていたんですよ。触っていくうちに「楽器をイメージしてそれを模倣して音色を作っていけば、なんとなく作れるんじゃないか」と感じたんです。当時はシンセに対しての知識もあんまりなかったから、ピアノやトランペットのような完成している楽器と違って、自分がイメージした好みの楽器を作れる、0から楽器を作れる機械だなっていう風に思いました。
森山:確かに当時のシンセサイザーは機械でしかないような見た目をしてますしね。
松武:そうなんですよ。これは余談なんですけど、冨田先生がシンセを購入した際に羽田の税関で止まっちゃったんですよ。どうしてそうなったかというと、シンセが軍事機密の機械なんじゃないかと思われちゃったんですよ(笑)。どこかの国と交信して情報を流すみたいな。
森山:本当にそういう見た目をしていますよね(笑)。
松武:それで冨田先生が困ってしまって、アメリカのモーグ社に「日本の税関で止められてしまったから、なんとかしてくれないか」と連絡したんです。そこでモーグ社は、キース・エマーソンとか当時シンセを使っていたアーティストの写真を送ってくれて、「これが冨田勲が輸入した楽器を使っているアーティストだ」と、それで税関もOKを出してくれて通してくれたんですよ。
森山:そこで何とか通ったおかげで今の音楽があるとも言えますよね。
松武:そうですね。だから最初にそういう楽器を輸入するのはリスクもあるんだと思いましたね。
森山:そんなことがあったんですね(笑)。
森山:それではイエロー・マジック・オーケストラについても聞かせてください。YMOはスタジオアルバムもライブアルバムもありますけど、どういう風に実際、制作が進んでいったのか、見えないところもありまして、お話を聞けたらと思います。
松武:ファーストアルバムは、まず細野晴臣さんが僕の仕事をしていたスタジオに来ていただいて、ファーストアルバムをする2~3週間くらい前でしょうか。
森山:そんなに直前に?
松武:はい、直前ですね。もう既に「Firecracker」を人力で録音されていたんですよ。ただ自分がイメージするものとちょっとだけ違うっていうことで、私がシンセサイザーの moog IIIcの話をさせてもらって、その日は30分ぐらいでお帰りになられたんですよ。そうしたら次の日にマネージャーから「細野さんがこの日とこの日でレコーディングしたいんですけど、スケジュールいかがでしょうか?」って連絡がきたんです。え、何事か?と思って。
森山:(笑)。
松武:そんなお誘いをお断りするわけにはいかないので、「わかりました!やらせてください!」って返事をして。そのときには細野さんの頭の中にどういうサウンドにしたいっていうのは既にあったみたいでした。細野さんは打ち込みは初めてだったと思うんですけど、僕が譜面通りに打って作っていって。
森山:MC-8?
松武:そうです。それが始まりでしたね。
森山:じゃあ、もしかして(松武さんが1978年にIIIC Magical Space Band名義でリリースした)「謎の無限音階」の時ってことですか?
松武:そうですね、まさにそのときでした。
森山:その時から細野さんは既に大御所の方だったんですね。
松武:もちろんそうでした。僕が最初にギャランティーをいただいたアルバムが南佳孝さんの「摩天楼のヒロイン」というデビューアルバムなんですけど、あのアルバムでは、細野さんがベースを弾いてらっしゃるし、お会いする前から知っていました。非常に尊敬していましたから。
森山:そういう方だとレコーディングのときは緊張しますね(笑)。どこからか松武さんのことを聞きつけていらっしゃったんですね。
松武:そうですね。そういう話をしたのは恐らく坂本龍一さんじゃないかなと思ってるんですけどね。
森山:その頃には教授(坂本龍一)と松武さんはもう既に出会ってるんですね。
松武:そうですね。最初にシンセを使って何かをしたのは南佳孝さんで、次に矢野顕子さんで。その次が坂本龍一さんでしたね。坂本さんと初めて会ったときは、キーボードを弾くとすごい方で。同じ年というのもあったし、気が合ったといいますか。坂本さんも個人でシンセを何台か持ってましたからね。ARP ODYSSEYという一番初期型のものかな。
森山:坂本さんは東京藝術大学も院まで行かれていて、大学でもシンセには触れていらしたんでしょうね。
松武:恐らく、ブックラとかもそうですね。
森山:お一人で研究室にこもっていたっていう逸話がありますもんね(笑)。
そんな中で坂本さんと『千のナイフ』というアルバムを一緒に作られるわけですね。
松武:そうですね。その頃は僕もMC-8という、所謂デジタルシークエンサーの打ち込みにまだ慣れてなくて。坂本さんが譜面を書いてくれて、「この通りに打ってくれますか」って言われて、僕がそれを打って。試行錯誤して僕もだんだん早く打つ練習をそのときにしていったんですよ。ひとつひとつ譜面を見てそれを打ってっていう作業では遅いので。右手は感覚で打ち込んでいましたね。
森山:ちょっと失礼かもしれないですけど、そこから後に"早打ちマック"と呼ばれるようになっていったわけですね(笑)。
松武:それは高橋幸宏さんが命名したんですけど(笑)。
森山:幸宏さんは命名が上手ですよね。"教授"というのも幸宏さんですよね?
松武:そうですね、幸宏さんですね(笑)。その頃に坂本さんが八分音符や十六分音符を揺らしたいと言い出して。レゲエのような後ろでリズムを取る感じといいますか。なので「Thousand Knives」も確かそうなっているんですよ、リズムが。坂本さんが譜面上にタイミングを書いてくれて、僕がその通りに打つと実際にそういう風になったんですよね。そういった構想も坂本さんの頭の中には既にあったみたいで。今は自動でできるボタンとかがありますけど、当時はひとつひとつ手動で打ち込んでました。毎日全てが実験でしたね。
森山:発明の毎日という感じですね。
森山:もう一つ伺いたいことがあるのですが、ライブのマニピュレーターっていうのは当時は明確な存在ではなかったと思いますけど、今や僕たちミュージシャンにとっては身近な存在なんですね。本当にひとつのバンドに1人はマニピュレーターがいて当たり前な時代で、僕たちのような小さなバンドだったら、メンバーがマニピュレーターを掛け持ちというか演奏しながらパソコンも傍に置いて、っていうことは結構あるんですけども、やっぱりトラブルがすごく怖いんですね。いつもライブをする度に、本当に心臓がバクバクして臨んでいるんですけど。トラブルが起こってしまったときの心構えを教えていただけますか?
松武:難しい質問ですね。でもYMOのときもそうですけど、起こりうるトラブルは想定できると思うんですよ。こうなった時はこうするしかないという風に起こりうるトラブルの対処法をみんなと事前に話し合ってますね。ただトラブルっていうのは人の心を読んでいるのかわかりませんが、思ってもみないとこで起こるんですよね(笑)。そして起きたときには慌てないってことが大切ですね。慌てるとお客さんに「あいつなんかやらかした」って気付かれてしまうので。僕たちYMOのワールドツアーでもトラブルが起きて1曲分が先に全部出ちゃったんですよ。データがはき出てしまうとその当時は元には戻せないですからね。でもみんなで話し合ってたから矢野顕子さんに合図して、リフから始めてもらって。それで事なきを得たわけなんですね。
森山:そんなことがあったんですね(笑)。貴重なエピソードをお話しいただき、ありがとうございました。
森山:ここからは松武さんのご自身の作品についてお話を伺いたいと思います。昨年の2020年に松武さんのユニットであるLogic Systemが最新アルバム『TECHNASMA』をリリースされました。僕も聴かせていただきまして。
松武:ありがとうございます。
森山:やっぱり何よりも音色が圧倒的だなって最初に感じました。アルバムを通して本当にひとつひとつの音のかっこよさが際立っていて、単純な音質がどうこうとかいう話を超えて、すごく魅力的な音だけで構成されてるなっていう風にも感じたんですね。それがどういう魅力なんだろうって考えて感じたのは、すごくシンプルな音作りに聴こえるんですけども、そこにオリジナリティがあって。シンプルなのにオリジナルなものってすごく難しいとは思うんです。聴いていてずっと発見と喜びがあるような感覚で。そういうものって本当に色んなことを積み上げてきた経験から生まれてくるのかなって思って。どういった風に制作されているのかがすごく気になりました。
松武:今回の『TECHNASMA』は、構想自体は2018・2019年ぐらいからあって、少しずつ音作りも含めてやってたんですよ。コンセプトはどういう方向にするかは決めていて、それによってどういう音色を作るかを考えていて。今回は全部じゃないんですけど、自分の持っているアナログシンセを出してきてやろうということは決めていたんですよ。曲のイメージでこのシンセのこういう良い部分を使って音を作ろうって決めていたんですね。
それで、自分の中でどういう最終形に着地させようかと考えていた時に、たまたまコロナがとんでもないことになってきて大騒ぎになって。コロナを題材にするわけにはいかないから、なぜコロナが生まれてきたのかとか、そういうことを自分なりに考え出しちゃったんですよ。人間は地球環境の破壊や戦争をやっていたりとか、そういうのって自然の摂理を壊しているわけじゃないですか。そうしてコロナは本当は地下深く眠っていたものが浮かび上がって出てきたのかなって、「人間、何やってんだ」っていう風に。そんな色んなことを考えるうちにコロナの音を作りたいって急に思い始めちゃったんですよ。それで曲ごとにみんなそれぞれコロナの音を作ってみたんですよ。自然がどうこうとか言える人間じゃないですけど、何か原因があるからこういう事態になっているわけで。中世にも色んなことがあって、今来ているのはまさにそれなのかと考えたりもしました。シンセサイザーでコロナの音とコロナに打ち勝つための音を自分なりに作り出したんですよ。シンセで最高の音をその場その場で作れる限りやりたいなっていうのは凄く思っています。
森山:やっぱり松武さんはシンセサイザーを50年ぐらい触り続けられているわけで。でもシンセサイザーの根本は変わってないじゃないですか。
松武:そうですね、何も変わってないですね。
森山:でもまだ新しい音があるって感じますか?
松武:そうですね。シンセサイザーはバージョンがあるじゃないですか。バージョンがいくつも上がっていくから完成形がないんですよ。ピアノとかは、あれ以上何がどうなることはないわけで。シンセだけが新たにどんどん発展していくわけなんですよね。だから宇宙旅行ができるようになったら持って行く楽器はシンセしかないと思うんですよね(笑)。他の楽器は大きくて重いしひとつの音しか奏でられないし。なので『TECHNASMA』で僕が表現したかったことは、2020年の音を僕が考えるとするならこれですっていう提言だったかな。
森山:すごく陰と陽に溢れたアルバムだなって感じていて。そのコントラストがすごく気持ちいいなと思ったんですよ。「Time Seeds」や「Contact」っていう曲はすごくアンビエント的で、僕はアンビエントファンでもあるので刺さってしまいました。
それではここで1曲かけたいと思いますが、どの曲にしましょうか?
松武:すごく迷ったんですけど、「Golden Ratio」という曲をかけていただこうと思います。この曲を作っているときに何を考えたのかと言いますと、さっきの自然の摂理の話とも繋がるんですけど、それらは黄金分割なんですよ。木や葉っぱは毎年同じ場所から同じ形で生えてきますよね。それは壊しちゃいけないっていうイメージで作った曲です。
森山:今日は本当に1時間たっぷりとお話を聞かせていただきました。
最後にちょっとだけ全然関係ないんですけど、プライベートな質問をさせてください。
松武さんが、最近幸せだと感じる瞬間はいつですか?
松武:やっぱり健康でいられることですかね。そしてやっぱり音楽制作をずっと続けられることが幸せだなと思う一瞬ですね。
森山:それこそコロナ禍で健康のことを考え直す機会は増えましたもんね。僕自身も睡眠のこととか日々健康に生きることを去年から考えるようになりました。
松武:すごく良いことだと思いますよ、それは。
森山:本当に大事ですよね。
もうひとつ追加で質問させていただきたいんですけど、松武さんはミュージシャンとして長く続けられているわけで、ひとつのことを続けるってすごく難しいなってここ最近感じるようになってきて、どうしても辞める理由とかそういうものを見つけちゃうこともあると思うんです。ひとつのことを続けていくっていうのは、どういう心構えでいたら続けていけるのかなっていうことを教えていただけますでしょうか?
松武:なんかね、自分が知りたいことがたくさんあって、特にシンセサイザーって終点はないんですよ。だから自分でテーマを決めて進む。僕の場合は音色を作るっていうことが最初にありますけど、それをずっとやり続けていくことかなとは思いますね。やっぱり失敗はあるわけですよ。ただその失敗を二度と繰り返さないっていう、そういう積み重ねだと思いますね。
森山:本当にためになります。これはみなさん保存版ですね。
まだまだお話をしていたいんですけども、お時間がきてしまいました。今日は本当にありがとうございました。
松武:ありがとうございました。
森山:いつかまた僕も松武さんとどこかでご一緒できることを夢見ながら、今日はこの辺りでお別れしたいと思います。「Room "H"」今夜のゲストは松武秀樹さんでした。ありがとうございました。
The Beatles「Maxwell's Silver Hammer」
坂本龍一「Thousand Knives」
Logic System「Golden Ratio」
番組へのメッセージをお待ちしています。
Twitter #FM福岡 #RoomH をつけてツイートしてください。MC3人ともマメにメッセージをチェックしています。レポート記事の感想やリクエストなどもありましたら、#SENSA もつけてツイートしてください!
放送時間:毎週水曜日 26:00~26:55
放送局:FM福岡(radikoで全国で聴取可能)
黒川侑司(ユアネス Vo.&Gt.)
福岡で結成された4人組ロックバンド。感情の揺れが溢れ出し琴線に触れる声と表現力を併せ持つヴォーカルに、変拍子を織り交ぜる複雑なバンドアンサンブルとドラマティックなアレンジで、
詞世界を含め一つの物語を織りなすような楽曲を展開。
重厚な音の渦の中でもしっかり歌を聴かせることのできるLIVEパフォーマンスは、エモーショナルで稀有な存在感を放っている。2021年4月21日にFRIENDSHIP.より新曲「Alles Liebe」を配信リリース。
オフィシャルサイト/ @yourness_on/ @yourness_kuro
松本大(LAMP IN TERREN Vo.&Gt.)
2006年に長崎県で結成。バンド名「LAMP IN TERREN」には「この世の微かな光」という意味が込められている。松本の描く人の内面を綴った歌詞と圧倒的な歌声、そしてその声を4人で鳴らす。聴く者の日常に彩りを与え、その背中を押す音楽を奏でる集団である。
2020年10月14日にアルバム「FRAGILE」をリリース。
オフィシャルサイト/ @lampinterren/ @pgt79 / @lampinterren
森山公稀(odol Piano&Synth.)
福岡出身のミゾベリョウ(Vo.)、森山公稀(Pf./Syn.)を中心に2014年東京にて結成した5人組。ジャンルを意識せず、自由にアレンジされる楽曲には独自の先進性とポピュラリティが混在し、新しい楽曲をリリースする度にodolらしさを更新している。
2021年6月9日に、NEW ALBUM「はためき」をリリース。
オフィシャルサイト/ @odol_jpn/ @KokiMoriyama
今週のMCは、odolの森山公稀が担当。SENSAでは、オンエア内容を一部レポート!(聴き逃した方やもう一度聴きたい方は、radiko タイムフリーをご利用下さい。)
ゲスト:松武秀樹@リビングルーム
森山:FM福岡からodolの森山公稀がお送りしているRoom "H"。ここからは@リビングルーム拡大版ということで、さっそく今夜のゲストにご登場していただきましょう。
シンセサイザープログラマーで作曲家・編曲家そしてプロデューサーでもあります、松武秀樹さんです。こんばんは。
松武:こんばんは松武です、よろしくお願いします。
松武秀樹
シンセサイザー・プログラマー / 作編曲 / プロデューサー
20歳から冨田勲氏のアシスタントとして、当時日本には数台しかなかった"モーグ・シンセサイザー"による音楽制作を経験。独立後もシンセサイザー・ミュージックの可能性を追求し続け、 モーグ・シンセサイザー・プログラマーの第一人者としてポップスからCM音楽まで、様々なジャンルのレコーディングにおいて重要な役割を果たす。1978年~1982年にかけてYMOの作品に参加、ワールド・ツアーを含めたライブにも帯同。
1981年には自身のユニットであるLogic System(ロジック・システム)をスタートさせ、数多くのアルバムをリリース。80年代初頭にリリースした代表作『Logic』、『Venus』、『東方快車』は世界中に熱狂的なファンを生み出し、今なお各方面で高い評価を受けている。2017年2月、音楽活動45周年を記念した、CD5枚におよぶアンソロジー的なボックス・セット『LOGIC CHRONICLE』をリリース。翌月には第20回文化庁メディア芸術祭「功労賞」を受賞。
森山:はじめまして、よろしくお願いします。僕はodolというバンドで作曲とピアノを弾いている、森山公稀と申します。今日は松武さんに聞きたいことが本当にたくさんあるんです。
松武:どうしよう(笑)。
森山:なので、ちょっと根掘り葉掘り聞かせていただきたいんですが、まずは松武さんの肩書きについてお伺いしたいです。シンセサイザープログラマーで作曲家・編曲家そしてプロデューサーという風にご紹介させていただいたんですけども、ご本人はどういった肩書きで活動されているんですか?
松武:そうですね、シンセサイザープログラマーっていうのは音色を0から作るというイメージが僕の中にはあるんです。だからこの中から選ぶとするなら、シンセサイザープログラマーですかね。
森山:そうですよね。音楽においてプログラマーっていう言葉を使うと、打ち込みだったりDAWで音符を書いていくイメージが皆さんあるかもしれないですけど、確かにシンセサイザーっていうのはそもそも音響合成機器のことで、電気の信号を音にするもので、松武さんはそれの始祖のようなお方ですもんね(笑)。
松武:いえいえ、ありがとうございます(笑)。
音楽・シンセサイザーとの出会いについて
森山:そんなことも含めて、今日は色々と伺っていきたいと思ってます。松武さんは音楽との出会いはどういったものだったんですか?
松武:色んなことがあったんですけども、まずはうちの父親がサックス吹きだったんですよ。フルバンドに所属していて、名前はシャープス&フラッツというバンドなんですけど。そこの初期のメンバーだったんですよね。テナーサックスを吹いていて、家でもサックスの練習をしていたので、子供の頃から楽器は身近にありましたね。
森山:当然のように生まれた頃から楽器がそばにあったっていうことなんですね。
松武:そうですね。オルガンもありましたから、生まれた頃からそういう環境にいたので、音楽との出会いはそういうことになってきますね。
森山:そんな中で松武さんはシンセサイザーと出会っていくわけなんですね。それはどういった出会いだったんでしょうか?
松武:シンセサイザーは量産できる体制が整ったのが1965年ぐらいからなんですよ。僕自身は色んな場所で聴いていたつもりではいたんですけど、決定的だったのは1970年の大阪での万国博覧会でした。当時は高校3年生の時かな、初めて新幹線に乗って行きました。見たかったものは月の石なんですけど、月の石自体は見るのは並んで5時間、見て10秒程度で終わってしまうので。
森山:ニュースで観たことあります(笑)。
松武:そうですよね(笑)。音楽好きの友達と行っていたので、大阪のあるレコード店に行ったんです。お店に入ると聴いたことがない奇妙でキテレツな音がしてるんです。聴いたことがないような。曲はバッハがかかっていて、そのお店の人に「これは何ですか?」と尋ねたら、「Switched on Bach」というレコードを見せてもらって「え!?これ、楽器なんですか?」と聞くと「これはシンセサイザーっていう楽器で演奏してるんだよ」って教えてもらったんですよ。
それから東京に帰ってきて、渋谷にあるYAMAHAの楽器店に探しに行ったんです。そしたらお店の人に「君が見てきた楽器はシンセサイザーっていう楽器で、今ここにあるから見せてあげる」と言われたんです。パンフレットを見せてもらって、そしたらすごく高く積み上がったモジュラーシンセが載っていて、それが鳴っているんだ、と。
実際に見たわけではないですけど、それが初めて聴いたシンセサイザーの音で、やっぱりビックリしましたね。それまでは電気楽器といえば、どうしてもエレキギターやオルガン、あとはエレクトーンぐらいしか聴いたことはなかったので。それが出会いでしたね。
森山:なるほど、そうだったんですね。ここで松武さんセレクトで音楽を紹介していただきたいなと思うんですけども、本日はご自身の音楽の背骨になっている曲を、難しいとは思うんですけど1曲選んでいただきたいなと思います。
松武:誰にしようかなと迷ったんですが、やっぱりこれしかないかなと思って。皆さんが知っている曲で、The Beatlesの「Maxwell's Silver Hammer」をお願いします。
森山:ビートルズを選ばれるのはちょっと意外だったんですが、なぜビートルズを選ばれたんですか?
松武:あの時代ってビートルズは結構早くからシンセサイザーを使っていて、たしかジョージ・ハリスンがモーグ・シンセサイザーを購入されてたんですよね、moog IIIpというものを。僕のはIIIcなんですけど。
森山:ポータブル型の。
松武:そうです、あの持ち運びの簡単なものです。音色作りを誰がやったかわからないですけど、まぁ本人たちがやったんだとは思いますが。
森山:試行錯誤したんでしょうかね。
松武:でも、シンセのまろやかな音と後半から出てくるオブリの柔らかいリードの音、今でもああいう音は素晴らしいと思いますよね。moogらしい音だし。
森山:そうですよね。確かにビートルズは実験音楽とか前衛音楽との繋がりの影響も凄く色濃く出てますよね。
松武:そうですね。多分私が思うに、アメリカはThe Beach Boys、イギリスはビートルズと、両方ともシンセサイザーを使っていて、お互いに切磋琢磨していたんじゃないかなと。ビーチボーイズだと「グッド・ヴァイブレーション」とかがそうなんですけど。両国ともどっちが先にシンセサイザーを使いこなすかみたいな意識はあったと思うんですよ。
森山:面白いですね(笑)。
松武:そういう時代でしたよね。
森山:今日は一つお聞きしたいなと思っていることがありまして、松武さんがシンセサイザーに触れた当時はまだまだシンセは未知の楽器だったと思うんですけど、どういった印象をお持ちでしたか?
松武:最初にシンセサイザーに触れたのが、僕の先生の冨田勲さんの自宅のスタジオだったんです。そこで先生が僕に「松武くん、僕は24時間起きているわけにはいかないから、寝てる間は君が自由にシンセサイザーを使っていいよ」って言ってくれたんですね。それを聞いて僕は驚いてしまって。あの万博で見たものが目の前にあって、それを自由に触れるっていうことは奇跡に近いことじゃないですか。それで寝ずに触らせてもらっていたんですよ。触っていくうちに「楽器をイメージしてそれを模倣して音色を作っていけば、なんとなく作れるんじゃないか」と感じたんです。当時はシンセに対しての知識もあんまりなかったから、ピアノやトランペットのような完成している楽器と違って、自分がイメージした好みの楽器を作れる、0から楽器を作れる機械だなっていう風に思いました。
森山:確かに当時のシンセサイザーは機械でしかないような見た目をしてますしね。
松武:そうなんですよ。これは余談なんですけど、冨田先生がシンセを購入した際に羽田の税関で止まっちゃったんですよ。どうしてそうなったかというと、シンセが軍事機密の機械なんじゃないかと思われちゃったんですよ(笑)。どこかの国と交信して情報を流すみたいな。
森山:本当にそういう見た目をしていますよね(笑)。
松武:それで冨田先生が困ってしまって、アメリカのモーグ社に「日本の税関で止められてしまったから、なんとかしてくれないか」と連絡したんです。そこでモーグ社は、キース・エマーソンとか当時シンセを使っていたアーティストの写真を送ってくれて、「これが冨田勲が輸入した楽器を使っているアーティストだ」と、それで税関もOKを出してくれて通してくれたんですよ。
森山:そこで何とか通ったおかげで今の音楽があるとも言えますよね。
松武:そうですね。だから最初にそういう楽器を輸入するのはリスクもあるんだと思いましたね。
森山:そんなことがあったんですね(笑)。
YMO作品 制作当時のエピソード
森山:それではイエロー・マジック・オーケストラについても聞かせてください。YMOはスタジオアルバムもライブアルバムもありますけど、どういう風に実際、制作が進んでいったのか、見えないところもありまして、お話を聞けたらと思います。
松武:ファーストアルバムは、まず細野晴臣さんが僕の仕事をしていたスタジオに来ていただいて、ファーストアルバムをする2~3週間くらい前でしょうか。
森山:そんなに直前に?
松武:はい、直前ですね。もう既に「Firecracker」を人力で録音されていたんですよ。ただ自分がイメージするものとちょっとだけ違うっていうことで、私がシンセサイザーの moog IIIcの話をさせてもらって、その日は30分ぐらいでお帰りになられたんですよ。そうしたら次の日にマネージャーから「細野さんがこの日とこの日でレコーディングしたいんですけど、スケジュールいかがでしょうか?」って連絡がきたんです。え、何事か?と思って。
森山:(笑)。
松武:そんなお誘いをお断りするわけにはいかないので、「わかりました!やらせてください!」って返事をして。そのときには細野さんの頭の中にどういうサウンドにしたいっていうのは既にあったみたいでした。細野さんは打ち込みは初めてだったと思うんですけど、僕が譜面通りに打って作っていって。
森山:MC-8?
松武:そうです。それが始まりでしたね。
森山:じゃあ、もしかして(松武さんが1978年にIIIC Magical Space Band名義でリリースした)「謎の無限音階」の時ってことですか?
松武:そうですね、まさにそのときでした。
森山:その時から細野さんは既に大御所の方だったんですね。
松武:もちろんそうでした。僕が最初にギャランティーをいただいたアルバムが南佳孝さんの「摩天楼のヒロイン」というデビューアルバムなんですけど、あのアルバムでは、細野さんがベースを弾いてらっしゃるし、お会いする前から知っていました。非常に尊敬していましたから。
森山:そういう方だとレコーディングのときは緊張しますね(笑)。どこからか松武さんのことを聞きつけていらっしゃったんですね。
松武:そうですね。そういう話をしたのは恐らく坂本龍一さんじゃないかなと思ってるんですけどね。
森山:その頃には教授(坂本龍一)と松武さんはもう既に出会ってるんですね。
松武:そうですね。最初にシンセを使って何かをしたのは南佳孝さんで、次に矢野顕子さんで。その次が坂本龍一さんでしたね。坂本さんと初めて会ったときは、キーボードを弾くとすごい方で。同じ年というのもあったし、気が合ったといいますか。坂本さんも個人でシンセを何台か持ってましたからね。ARP ODYSSEYという一番初期型のものかな。
森山:坂本さんは東京藝術大学も院まで行かれていて、大学でもシンセには触れていらしたんでしょうね。
松武:恐らく、ブックラとかもそうですね。
森山:お一人で研究室にこもっていたっていう逸話がありますもんね(笑)。
そんな中で坂本さんと『千のナイフ』というアルバムを一緒に作られるわけですね。
松武:そうですね。その頃は僕もMC-8という、所謂デジタルシークエンサーの打ち込みにまだ慣れてなくて。坂本さんが譜面を書いてくれて、「この通りに打ってくれますか」って言われて、僕がそれを打って。試行錯誤して僕もだんだん早く打つ練習をそのときにしていったんですよ。ひとつひとつ譜面を見てそれを打ってっていう作業では遅いので。右手は感覚で打ち込んでいましたね。
森山:ちょっと失礼かもしれないですけど、そこから後に"早打ちマック"と呼ばれるようになっていったわけですね(笑)。
松武:それは高橋幸宏さんが命名したんですけど(笑)。
森山:幸宏さんは命名が上手ですよね。"教授"というのも幸宏さんですよね?
松武:そうですね、幸宏さんですね(笑)。その頃に坂本さんが八分音符や十六分音符を揺らしたいと言い出して。レゲエのような後ろでリズムを取る感じといいますか。なので「Thousand Knives」も確かそうなっているんですよ、リズムが。坂本さんが譜面上にタイミングを書いてくれて、僕がその通りに打つと実際にそういう風になったんですよね。そういった構想も坂本さんの頭の中には既にあったみたいで。今は自動でできるボタンとかがありますけど、当時はひとつひとつ手動で打ち込んでました。毎日全てが実験でしたね。
森山:発明の毎日という感じですね。
森山:もう一つ伺いたいことがあるのですが、ライブのマニピュレーターっていうのは当時は明確な存在ではなかったと思いますけど、今や僕たちミュージシャンにとっては身近な存在なんですね。本当にひとつのバンドに1人はマニピュレーターがいて当たり前な時代で、僕たちのような小さなバンドだったら、メンバーがマニピュレーターを掛け持ちというか演奏しながらパソコンも傍に置いて、っていうことは結構あるんですけども、やっぱりトラブルがすごく怖いんですね。いつもライブをする度に、本当に心臓がバクバクして臨んでいるんですけど。トラブルが起こってしまったときの心構えを教えていただけますか?
松武:難しい質問ですね。でもYMOのときもそうですけど、起こりうるトラブルは想定できると思うんですよ。こうなった時はこうするしかないという風に起こりうるトラブルの対処法をみんなと事前に話し合ってますね。ただトラブルっていうのは人の心を読んでいるのかわかりませんが、思ってもみないとこで起こるんですよね(笑)。そして起きたときには慌てないってことが大切ですね。慌てるとお客さんに「あいつなんかやらかした」って気付かれてしまうので。僕たちYMOのワールドツアーでもトラブルが起きて1曲分が先に全部出ちゃったんですよ。データがはき出てしまうとその当時は元には戻せないですからね。でもみんなで話し合ってたから矢野顕子さんに合図して、リフから始めてもらって。それで事なきを得たわけなんですね。
森山:そんなことがあったんですね(笑)。貴重なエピソードをお話しいただき、ありがとうございました。
コロナ禍で生まれたLogic System『TECHNASMA』
森山:ここからは松武さんのご自身の作品についてお話を伺いたいと思います。昨年の2020年に松武さんのユニットであるLogic Systemが最新アルバム『TECHNASMA』をリリースされました。僕も聴かせていただきまして。
松武:ありがとうございます。
森山:やっぱり何よりも音色が圧倒的だなって最初に感じました。アルバムを通して本当にひとつひとつの音のかっこよさが際立っていて、単純な音質がどうこうとかいう話を超えて、すごく魅力的な音だけで構成されてるなっていう風にも感じたんですね。それがどういう魅力なんだろうって考えて感じたのは、すごくシンプルな音作りに聴こえるんですけども、そこにオリジナリティがあって。シンプルなのにオリジナルなものってすごく難しいとは思うんです。聴いていてずっと発見と喜びがあるような感覚で。そういうものって本当に色んなことを積み上げてきた経験から生まれてくるのかなって思って。どういった風に制作されているのかがすごく気になりました。
松武:今回の『TECHNASMA』は、構想自体は2018・2019年ぐらいからあって、少しずつ音作りも含めてやってたんですよ。コンセプトはどういう方向にするかは決めていて、それによってどういう音色を作るかを考えていて。今回は全部じゃないんですけど、自分の持っているアナログシンセを出してきてやろうということは決めていたんですよ。曲のイメージでこのシンセのこういう良い部分を使って音を作ろうって決めていたんですね。
それで、自分の中でどういう最終形に着地させようかと考えていた時に、たまたまコロナがとんでもないことになってきて大騒ぎになって。コロナを題材にするわけにはいかないから、なぜコロナが生まれてきたのかとか、そういうことを自分なりに考え出しちゃったんですよ。人間は地球環境の破壊や戦争をやっていたりとか、そういうのって自然の摂理を壊しているわけじゃないですか。そうしてコロナは本当は地下深く眠っていたものが浮かび上がって出てきたのかなって、「人間、何やってんだ」っていう風に。そんな色んなことを考えるうちにコロナの音を作りたいって急に思い始めちゃったんですよ。それで曲ごとにみんなそれぞれコロナの音を作ってみたんですよ。自然がどうこうとか言える人間じゃないですけど、何か原因があるからこういう事態になっているわけで。中世にも色んなことがあって、今来ているのはまさにそれなのかと考えたりもしました。シンセサイザーでコロナの音とコロナに打ち勝つための音を自分なりに作り出したんですよ。シンセで最高の音をその場その場で作れる限りやりたいなっていうのは凄く思っています。
森山:やっぱり松武さんはシンセサイザーを50年ぐらい触り続けられているわけで。でもシンセサイザーの根本は変わってないじゃないですか。
松武:そうですね、何も変わってないですね。
森山:でもまだ新しい音があるって感じますか?
松武:そうですね。シンセサイザーはバージョンがあるじゃないですか。バージョンがいくつも上がっていくから完成形がないんですよ。ピアノとかは、あれ以上何がどうなることはないわけで。シンセだけが新たにどんどん発展していくわけなんですよね。だから宇宙旅行ができるようになったら持って行く楽器はシンセしかないと思うんですよね(笑)。他の楽器は大きくて重いしひとつの音しか奏でられないし。なので『TECHNASMA』で僕が表現したかったことは、2020年の音を僕が考えるとするならこれですっていう提言だったかな。
森山:すごく陰と陽に溢れたアルバムだなって感じていて。そのコントラストがすごく気持ちいいなと思ったんですよ。「Time Seeds」や「Contact」っていう曲はすごくアンビエント的で、僕はアンビエントファンでもあるので刺さってしまいました。
それではここで1曲かけたいと思いますが、どの曲にしましょうか?
松武:すごく迷ったんですけど、「Golden Ratio」という曲をかけていただこうと思います。この曲を作っているときに何を考えたのかと言いますと、さっきの自然の摂理の話とも繋がるんですけど、それらは黄金分割なんですよ。木や葉っぱは毎年同じ場所から同じ形で生えてきますよね。それは壊しちゃいけないっていうイメージで作った曲です。
森山:今日は本当に1時間たっぷりとお話を聞かせていただきました。
最後にちょっとだけ全然関係ないんですけど、プライベートな質問をさせてください。
松武さんが、最近幸せだと感じる瞬間はいつですか?
松武:やっぱり健康でいられることですかね。そしてやっぱり音楽制作をずっと続けられることが幸せだなと思う一瞬ですね。
森山:それこそコロナ禍で健康のことを考え直す機会は増えましたもんね。僕自身も睡眠のこととか日々健康に生きることを去年から考えるようになりました。
松武:すごく良いことだと思いますよ、それは。
森山:本当に大事ですよね。
もうひとつ追加で質問させていただきたいんですけど、松武さんはミュージシャンとして長く続けられているわけで、ひとつのことを続けるってすごく難しいなってここ最近感じるようになってきて、どうしても辞める理由とかそういうものを見つけちゃうこともあると思うんです。ひとつのことを続けていくっていうのは、どういう心構えでいたら続けていけるのかなっていうことを教えていただけますでしょうか?
松武:なんかね、自分が知りたいことがたくさんあって、特にシンセサイザーって終点はないんですよ。だから自分でテーマを決めて進む。僕の場合は音色を作るっていうことが最初にありますけど、それをずっとやり続けていくことかなとは思いますね。やっぱり失敗はあるわけですよ。ただその失敗を二度と繰り返さないっていう、そういう積み重ねだと思いますね。
森山:本当にためになります。これはみなさん保存版ですね。
まだまだお話をしていたいんですけども、お時間がきてしまいました。今日は本当にありがとうございました。
松武:ありがとうございました。
森山:いつかまた僕も松武さんとどこかでご一緒できることを夢見ながら、今日はこの辺りでお別れしたいと思います。「Room "H"」今夜のゲストは松武秀樹さんでした。ありがとうございました。
6月23日(水) オンエア楽曲
odol「未来」The Beatles「Maxwell's Silver Hammer」
坂本龍一「Thousand Knives」
Logic System「Golden Ratio」
番組へのメッセージをお待ちしています。
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RADIO INFORMATION
FM 福岡「Room "H"」
毎週月曜日から金曜日まで深夜にオンエアされる、福岡市・警固六角にある架空のマンションの一室を舞台に行われ、次世代クリエイターが様々な情報を発信するプログラム「ミッドナイト・マンション警固六角(けごむつかど)」。"203号室(毎週水曜日の26:00~26:55)"では、音楽番組「Room "H"」をオンエア。九州にゆかりのある3組のバンド、ユアネスの黒川侑司、LAMP IN TERRENの松本大、odolの森山公稀が週替わりでMCを務め、本音で(Honestly)、真心を込めて(Hearty)、気楽に(Homey) 音楽愛を語る。彼らが紹介したい音楽をお届けし、またここだけでしか聴けない演奏も発信していく。放送時間:毎週水曜日 26:00~26:55
放送局:FM福岡(radikoで全国で聴取可能)
番組MC
黒川侑司(ユアネス Vo.&Gt.)
福岡で結成された4人組ロックバンド。感情の揺れが溢れ出し琴線に触れる声と表現力を併せ持つヴォーカルに、変拍子を織り交ぜる複雑なバンドアンサンブルとドラマティックなアレンジで、
詞世界を含め一つの物語を織りなすような楽曲を展開。
重厚な音の渦の中でもしっかり歌を聴かせることのできるLIVEパフォーマンスは、エモーショナルで稀有な存在感を放っている。2021年4月21日にFRIENDSHIP.より新曲「Alles Liebe」を配信リリース。
オフィシャルサイト/ @yourness_on/ @yourness_kuro
松本大(LAMP IN TERREN Vo.&Gt.)
2006年に長崎県で結成。バンド名「LAMP IN TERREN」には「この世の微かな光」という意味が込められている。松本の描く人の内面を綴った歌詞と圧倒的な歌声、そしてその声を4人で鳴らす。聴く者の日常に彩りを与え、その背中を押す音楽を奏でる集団である。
2020年10月14日にアルバム「FRAGILE」をリリース。
オフィシャルサイト/ @lampinterren/ @pgt79 / @lampinterren
森山公稀(odol Piano&Synth.)
福岡出身のミゾベリョウ(Vo.)、森山公稀(Pf./Syn.)を中心に2014年東京にて結成した5人組。ジャンルを意識せず、自由にアレンジされる楽曲には独自の先進性とポピュラリティが混在し、新しい楽曲をリリースする度にodolらしさを更新している。
2021年6月9日に、NEW ALBUM「はためき」をリリース。
オフィシャルサイト/ @odol_jpn/ @KokiMoriyama