SENSA

2021.06.23

Ayane Yamazaki「Ribbon」──奥深く秘めた強さと美しさで包み込むアンビエント・ポップ

Ayane Yamazaki「Ribbon」──奥深く秘めた強さと美しさで包み込むアンビエント・ポップ

 まどろみと覚醒の狭間をたゆたう音。まるで身体は休んでいるが脳は起きているというレム睡眠時のBGMか、と思しき音楽が聞こえてくる。揺らめく音像と霧の中で響くようなウィスパー・ヴォイス。儚く美しく、そして心に突き刺さるのだ。
 Ayane Yamazakiこと山崎彩音は、バンド・サウンドが似合うシンガー・ソングライターとして、2017年にデビューしている。当初は力強いヴォーカルを前面に押し出していたが、徐々にキーボードやシンセサイザーなどをサウンドの軸に置くようになり、楽曲やヴォーカルも丸みを帯びていく。昨年発表されたEP『呼びかけられて』は、松本隆と細野晴臣のコンビによる安田成美の名曲「風の谷のナウシカ」のカヴァーを始め、シティポップ的なメロウネスを取り入れた作風に大きくシフトした。
 しかし、新作『Ribbon』はさらに進化し、新たなベクトルへと向かっている。まず、サウンド全体がプログラミングをメインとしたエレクトロ・ポップ的なものへと大幅に変化。しかもビートは控えめに、アンビエントとでもいうべき浮遊感を全編で構築している。この新しいサウンドには、ここしばらくタッグを組んでいるCHAINSの丸山桂のプロデュース力も大きいのだろう。新しいスタイルのドリーム・ポップがここに生み出されているのだ。
 そして何よりも、Ayane Yamazakiのヴォーカルに惹き込まれる。とりわけ先行で配信されていた「Melody」は絶品だ。ストリングスのピチカートに乗せてアンニュイに歌うスタイルは、甘く切なく狂おしいラブソングにぴったり似合う。耽美的ともいえる彼女の声とその響きが演出する世界観に、聴く者は誰もが酔いしれるだろう。
 本作は6曲入りだが、意外にも半数の3曲はインストゥルメンタルだ。言葉少なく歌い綴る冒頭の「Ribbon」や、ささやくように甘美な言葉を綴る「Phase」も素晴らしいが、夢のような時間を演出する言葉のない小品も、トータルで聴くためには非常に重要だ。6曲それぞれが有機的に絡み合い、『Ribbon』という傑作を形作っている。
 レム睡眠時は夢を見やすく、また夢というものは起きたらすぐに忘れてしまう。しかし夢のような音に満ち溢れた『Ribbon』は、いつまでも心と記憶に刺さったまま残っている。

文:栗本斉(音楽&旅ライター/選曲家)




RELEASE INFORMATION

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Ayane Yamazaki『Ribbon』
2021年6月23日(水)
Format:Digital
Label:FRIENDSHIP.

Track:
01. Ribbon
02. Melody
03. Blue
04. Feel Summer
05. Phase
06. Sophia

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LINK
オフィシャルサイト
@Ayane_Yamazaki
@ayane_yamazaki_music

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