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2021.06.09

YMB「トンネルの向こう」──日常の憂鬱を優しく拭うソウル・ミュージック

YMB「トンネルの向こう」──日常の憂鬱を優しく拭うソウル・ミュージック

 素晴らしいソウル・バンド。2015年から大阪を中心に活動している4人組バンド・YMBのサード・アルバム『トンネルの向こう』を一聴した感想はそうしたものだった。ソウル、ブルース、ヒップホップなどを吸収したサウンドだ。
 冒頭を飾る「水曜日の街、金曜日の街」では、ナチュラルなグルーヴの中に絶妙なタメがあり、J・ディラ以降のビートすら感じた。2019年のファースト・ミニ・アルバム『CITY』はブラック・ミュージックの濃度が高かったものの、2020年のセカンド・ミニ・アルバム『ラララ』はロック色が強くなっていた。そして『トンネルの向こう』では、腕を上げながらブラック・ミュージックに回帰した印象を受ける。
 韻の踏み方に唸らされたのが「little escape」だ。ギターのカッティングも心地いいソウル・ナンバーだが、ラップ・パートの〈不条理を今日も素通りして辻褄合わせる苦労人〉というリリックにおける「i」音の踏み方は秀逸。歌のパートでも〈透き通った午後の車道 水面下1メートルを走行〉と「u」音で韻を踏んでいる点は、聴き逃がしそうになるほど自然だ。
 「think」や「コバルトブルー」では、ベースのいとっちがヴォーカルを務めているが、彼女の歌声にはちょっとしたメランコリーが滲んでいる。ヴォーカルという点では、「トンネルの向こう」や「夕景」でのハーモニーの美しさにも思わず耳を奪われた。
 「クリスマス」だけブリティッシュ・ロック感があるのがユニーク。そして、「フィルム」はラップ・ナンバーかと思わせておいて、ボサノヴァ・ギターへと展開していくことに驚かされた。
 Apple MusicやSpotifyでは、「80 songs that influenced YMB」と題して、YMBに影響を与えた80曲のプレイリストが公開されている。古今東西の楽曲が入っているのだが、ceroやWONKといった、『トンネルの向こう』を聴きながら連想したバンドもしっかり収録されている。ともすればYMBを「シティ・ポップ」と呼ぶこともできそうなのだが、まずはブラック・ミュージックの影響が濃いバンドとしてしっかり評価しておきたい。



 さて、「little escape」に〈不条理を今日も素通りして辻褄合わせる苦労人〉というフレーズが出てくることはすでに紹介したが、そんな日常の憂鬱を優しく拭う姿勢がYMBにはある。今年の梅雨が長梅雨になったとしても、そんな日々に穏やかに寄り添ってくれそうな作品が『トンネルの向こう』なのだ。

文:宗像明将




RELEASE INFORMATION
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YMB「トンネルの向こう」
2021年6月9日(水)

Track:
01. 水曜日の街、金曜日の街
02. little escape
03. think
04. トンネルの向こう
05. クリスマス
06. コバルトブルー
07. フィルム
08. 夕景

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@ymb___
@ymb_official
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