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2022.03.21
ズーカラデルの作品はタイトルからして粋(いき)だ。メジャーデビュー作となった前作ミニアルバム『がらんどう』(2020年)は、日々思考の渦に呑み込まれ、恋のこと、夢見ること、明日を迎えることの意味のあれこれとこねくりまわすような楽曲たちに、あえて空っぽを意味する日本語を冠することで、人間の愛すべき虚しさを端的に表しているような作品だった。続いて、今年1月にリリースされた最新アルバムが『JUMP ROPE FREAKS』だ。直訳すると、縄跳びマニア、とでも言おうか。人生とは、決して前に進まないまま同じ場所をジャンプし続ける縄跳びのようなもの。そんな日々に人は熱狂する。それは、コロナであろうと、なかろうと、じたばたと一進一退の日々を足掻き続ける私たちのあり様を表すのにぴったりの言葉だった。以下のテキストは、そんなズーカラデルが『JUMP ROPE FREAKS』を引っ提げた全国ワンマンツアー「JUMP ROPE MADNESS TOUR」の初日Zepp Hanedaのレポートになる。バンドにとっては2年ぶり。キャパを大きく上げた全9ヵ所のツアーだ。
夕暮れのようなオレンジ色にステージが染まるなか、ボブ・ディラン「雨の日の女」のSEにのせて、吉田崇展(Vo/Gt)、鷲見こうた(Ba)、山岸りょう(Dr)、サポートのギターの永田涼司(Couple)、キーボードの山本健太が現れた。「ズーカラデル、はじめます」。吉田の音場を合図にオープニングを飾ったのは最新アルバムのタイトルトラック「ジャンプロープフリークス」。山岸がドラムスティックで刻んだカウントを皮切りに響きわたる軽やかなバンドサウンドに吉田の朴訥としたボーカルがはずんだ。「アリガトッ!」と、まるで外タレのように「ガ」にアクセントを置く吉田の独特のあいさつで集まったお客さんを出迎える。清涼感のあるコーラスと共に銀杏BOYZへのリスペクトを込めた「恋と退屈」、カラフルな照明を浴び、パレードのような祝祭感を描いた「ビューティ」から、ぐんぐんと荒野を突き進んでいくような「まちのひ」へ。時折、吉田と鷲見が、ドラムの山岸を中心に向き合い、お互いの音を感じながら鳴らされるズーカラデルの音楽を聴いていると、進んでいる、というイメージが浮かぶ。どんなに後悔しても前にしか進まない時間の流れに身を委ね、悲しみやよろこび、ほんの少しの諦めを抱えながら人生という道を進んでいるようなイメージ。山岸が叩き出す曇りのないシャッフルビートが、鷲見が奏でる陽気なベースラインが、平易な言葉遣いで物事の核心を突く吉田の歌が、人生への肯定感を与えてくれる気がする。
黒魔術、駱駝(らくだ)、一人乗りの筏、汽笛の唸り。ズーカラデルの歌たちは、日常の些細な気持ちを綴っているはずなのに、ふと散りばめられた単語にマジカルな煌めきが帯びている。中盤はそういう曲たちだった。「この世でいちばん美しいものは何だと思いますか? わたくしは叶わぬ恋だと思います」と、吉田がロマンチックな言葉を添えた6/8拍子のバラード「ジャーニー」から、チクタクと秒針のように刻むリズムに淡いメロディが揺れた「GHOST」、ファンキーなアジアンテイスト「どこでもいいから」、ステージに美しい光が降り注ぐなかでふるさとへの別れを告げた歌「春風」へと、序盤のアッパーな勢いをクールダウンするようにゆったりとした楽曲たちが続いた。そして、ステージに満点の星空を描いた「ノエル」からは、改めてズーカラデルは本当に名曲揃いだと唸らされるハイライトの連続だった。カントリーの賑わいで情熱を燃やす前作『がらんどう』からの「トーチソング」、「我々からあなたがた一人ひとりへのラブソングです」と添えた「友達のうた」、クライマックスにかけて前進のエナジーが加速する「ローリア」、〈地獄の入り口〉ですら豪快に笑い合うような「漂流劇団」。最新作では多彩な広がりを見せるズーカラデルの音楽だが、その原点にはスリーピースバンドであることへの美学も貫かれ、どこまでもロックだ。
ドラム、ベース、ギターが息の合ったリズムを刻んだイントロに軽妙なピアノが絡み合ったポップソング「未来」には、こんなパンチラインがあった。〈世界のどこかで何かが始まる/私を無視して〉。誰もが人生の主役である、なんていう都合のいい常套句はあるけれど、結局のところ、〈私〉がいなくても世界は残酷に進んでゆく。嫌いなヤツだっている。それでも、なんとかこの世界に恋をして、主役をもぎとるような気分で生きていくしかないのだろう。ズーカラデルが描く「世界と自分」の構図には、そんな人生哲学が強く根付いているように思う。続けて披露された、北海道時代から大切に歌い続けてきた「アニー」もそうだった。彼らはいつだって泥だらけの世界を生き抜く方法を歌ってきたバンドだと思う。本編の最後はムーディーなセッションにのせて、吉田が「今日この時間、我々はひとつの光になって、あの大空に飛んでいこうではありませんか」と、あえて気障っぽいセリフを残した「稲妻」。壮大なフィナーレと言うよりも、鷲見のウォーキングベースが支える昭和歌謡風のレトロなグルーヴにのせて、飾らない温度感で明日への希望を伝える締めくくりは、どんなにバンドが成長しても、素朴で人間くさいズーカラデルらしいフィナーレだった。
サポートメンバーを呼び込まずに3人だけで演奏した「夢の恋人」のほか、アンコールを含めて、この日は彼らのワンマン史上最多となる全26曲が披露された。ライブを終えたとき、「JUMP ROPE FREAKS」を掲げたツアーのタイトルが「JUMP ROPE MADNESS」であることが腑に落ちた。日々を足掻くことに取り憑かれた私たちを「フリークス」と呼ぶのは生ぬるい。きっと狂者なのだ。そうやって希望と絶望の狭間で日々をのたうちまわることそのものがかっこいいんだと。ズーカラデルのロックはそんなことを教えてくれたような気がした。
写真:鈴木友莉
02. つまらない夜
03. 恋と退屈
04. ビューティ
05. まちのひ
06. スタンドバイミー
07. ジャーニー
08. GHOST
09. どこでもいいから
10. 若者たち
11. 春風
12. ブギーバック
13. ノエル
14. トーチソング
15. 友達のうた
16. ローリア
17. 漂流劇団
18. ニュータウン
19. 夜に
20. 未来
21. アニー
22. シーラカンス
23. 稲妻
Encore
01. 夢の恋人
02. TAPIOCA
03. ダンサーインザルーム
プレイリスト試聴はこちら
ズーカラデル『JUMP ROPE FREAKS』
2022年1月19日(水)
試聴はこちら
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夕暮れのようなオレンジ色にステージが染まるなか、ボブ・ディラン「雨の日の女」のSEにのせて、吉田崇展(Vo/Gt)、鷲見こうた(Ba)、山岸りょう(Dr)、サポートのギターの永田涼司(Couple)、キーボードの山本健太が現れた。「ズーカラデル、はじめます」。吉田の音場を合図にオープニングを飾ったのは最新アルバムのタイトルトラック「ジャンプロープフリークス」。山岸がドラムスティックで刻んだカウントを皮切りに響きわたる軽やかなバンドサウンドに吉田の朴訥としたボーカルがはずんだ。「アリガトッ!」と、まるで外タレのように「ガ」にアクセントを置く吉田の独特のあいさつで集まったお客さんを出迎える。清涼感のあるコーラスと共に銀杏BOYZへのリスペクトを込めた「恋と退屈」、カラフルな照明を浴び、パレードのような祝祭感を描いた「ビューティ」から、ぐんぐんと荒野を突き進んでいくような「まちのひ」へ。時折、吉田と鷲見が、ドラムの山岸を中心に向き合い、お互いの音を感じながら鳴らされるズーカラデルの音楽を聴いていると、進んでいる、というイメージが浮かぶ。どんなに後悔しても前にしか進まない時間の流れに身を委ね、悲しみやよろこび、ほんの少しの諦めを抱えながら人生という道を進んでいるようなイメージ。山岸が叩き出す曇りのないシャッフルビートが、鷲見が奏でる陽気なベースラインが、平易な言葉遣いで物事の核心を突く吉田の歌が、人生への肯定感を与えてくれる気がする。
黒魔術、駱駝(らくだ)、一人乗りの筏、汽笛の唸り。ズーカラデルの歌たちは、日常の些細な気持ちを綴っているはずなのに、ふと散りばめられた単語にマジカルな煌めきが帯びている。中盤はそういう曲たちだった。「この世でいちばん美しいものは何だと思いますか? わたくしは叶わぬ恋だと思います」と、吉田がロマンチックな言葉を添えた6/8拍子のバラード「ジャーニー」から、チクタクと秒針のように刻むリズムに淡いメロディが揺れた「GHOST」、ファンキーなアジアンテイスト「どこでもいいから」、ステージに美しい光が降り注ぐなかでふるさとへの別れを告げた歌「春風」へと、序盤のアッパーな勢いをクールダウンするようにゆったりとした楽曲たちが続いた。そして、ステージに満点の星空を描いた「ノエル」からは、改めてズーカラデルは本当に名曲揃いだと唸らされるハイライトの連続だった。カントリーの賑わいで情熱を燃やす前作『がらんどう』からの「トーチソング」、「我々からあなたがた一人ひとりへのラブソングです」と添えた「友達のうた」、クライマックスにかけて前進のエナジーが加速する「ローリア」、〈地獄の入り口〉ですら豪快に笑い合うような「漂流劇団」。最新作では多彩な広がりを見せるズーカラデルの音楽だが、その原点にはスリーピースバンドであることへの美学も貫かれ、どこまでもロックだ。
ドラム、ベース、ギターが息の合ったリズムを刻んだイントロに軽妙なピアノが絡み合ったポップソング「未来」には、こんなパンチラインがあった。〈世界のどこかで何かが始まる/私を無視して〉。誰もが人生の主役である、なんていう都合のいい常套句はあるけれど、結局のところ、〈私〉がいなくても世界は残酷に進んでゆく。嫌いなヤツだっている。それでも、なんとかこの世界に恋をして、主役をもぎとるような気分で生きていくしかないのだろう。ズーカラデルが描く「世界と自分」の構図には、そんな人生哲学が強く根付いているように思う。続けて披露された、北海道時代から大切に歌い続けてきた「アニー」もそうだった。彼らはいつだって泥だらけの世界を生き抜く方法を歌ってきたバンドだと思う。本編の最後はムーディーなセッションにのせて、吉田が「今日この時間、我々はひとつの光になって、あの大空に飛んでいこうではありませんか」と、あえて気障っぽいセリフを残した「稲妻」。壮大なフィナーレと言うよりも、鷲見のウォーキングベースが支える昭和歌謡風のレトロなグルーヴにのせて、飾らない温度感で明日への希望を伝える締めくくりは、どんなにバンドが成長しても、素朴で人間くさいズーカラデルらしいフィナーレだった。
サポートメンバーを呼び込まずに3人だけで演奏した「夢の恋人」のほか、アンコールを含めて、この日は彼らのワンマン史上最多となる全26曲が披露された。ライブを終えたとき、「JUMP ROPE FREAKS」を掲げたツアーのタイトルが「JUMP ROPE MADNESS」であることが腑に落ちた。日々を足掻くことに取り憑かれた私たちを「フリークス」と呼ぶのは生ぬるい。きっと狂者なのだ。そうやって希望と絶望の狭間で日々をのたうちまわることそのものがかっこいいんだと。ズーカラデルのロックはそんなことを教えてくれたような気がした。
写真:鈴木友莉
JUMP ROPE MADNESS TOUR 2022年2月12日(土)Zepp Haneda SET LIST
01. ジャンプロープフリークス02. つまらない夜
03. 恋と退屈
04. ビューティ
05. まちのひ
06. スタンドバイミー
07. ジャーニー
08. GHOST
09. どこでもいいから
10. 若者たち
11. 春風
12. ブギーバック
13. ノエル
14. トーチソング
15. 友達のうた
16. ローリア
17. 漂流劇団
18. ニュータウン
19. 夜に
20. 未来
21. アニー
22. シーラカンス
23. 稲妻
Encore
01. 夢の恋人
02. TAPIOCA
03. ダンサーインザルーム
プレイリスト試聴はこちら
RELEASE INFORMATION
ズーカラデル『JUMP ROPE FREAKS』
2022年1月19日(水)
試聴はこちら
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