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2022.02.17
サブスクの時代の新世代のアーティストたちは、あらゆる音楽を吸収するからこそ、ジャンルに囚われない音楽を生み出すことができる。そのルーツミュージック辿ると、昭和も令和も、邦楽も洋楽も、インディーズもメジャーも関係なく、とにかく雑多で驚かされることが多い。2月4日に渋谷WWWで開催されたイベント「BOOK -CALM-」は、まさにそんな新しい時代のアーティストたちによって作り上げられたイベントだった。出演はリュックと添い寝ごはん、Mellow Youth、大橋ちっぽけが予定されていたが、リュックと添い寝ごはんのメンバーのひとりが新型コロナウイルス感染症の濃厚接触者と判断されたため、残念ながら、出演がキャンセル。そのぶん、大橋ちっぽけが急遽当初の予定よりも多く楽曲を披露し、Mellow Youthと共に、個性豊かな音楽で渋谷の夜に新しい風を吹かせてくれた。
先に登場したのは、ツインボーカルとツインギターを擁する5人組ロックバンド、Mellow Youthだった。伊佐奨(Vo/Gt)、木立伎人(Gt)、肥田野剛士(Ba)、阿部優樹(Dr)という楽器隊が、まずは軽くセッションするように音を鳴らすなか、最後にボーカルの石森龍乃介がステージに現れた。1曲目は渋いグルーヴが心地好くフロアを揺らした人気曲「Rouge & Memory」。ソウル、ファンクをはじめ、70年代あたりの日本の歌謡曲のエッセンスも感じる独特のサウンドにのせる石森のボーカルには、ダンディーな色気があった。彷彿とさせるボーカリストで言うと、田島貴男(オリジナル・ラブ)や岡村靖幸あたりだろうか。全員が1997~1998年生まれの若いバンドでありながら、会場を包み込むアダルトで上品なムードは、まさに「Mellow Youth」(円熟と若さ)というバンド名の意味そのままだ。
ミラーボールが回るなか、肥田野のベースがクールに跳ねた90年代の匂いがするシティポップ「PEARL」から、ロックテイストの「Run」、艶やかなサウンドで誘惑するソウルバラード「Actor's」へ。前半は、曲の終わりと始まりをノンストップにつないだ。石森が紡ぐ湿り気のある歌に導かれるように、バンドが熱を帯び、伸びやかな抑揚を描いたアーバンなAORテイスト「MID LINE」は素晴らしかった。彼らの音楽性をひとことで言うならば、「現代版シティッポップ」と括られるのだろうが、5人の個性が、歪に、美しく交ざり合って繰り出されるステージには、そんな言葉だけでは語り切れない独特の空気がある。「ちょっと息切れが止まらない(笑)」と呼吸を整えた石森が「これからもMellow Youthは走り続けます」と意気込みを伝え、「Odor」へ。ゴージャスでダンサブルなサウンドで描かれる、みだらで一途な夜の物語。最後の瞬間までMellow Youthは圧倒的にオリジナルだった。
後半は、シンガーソングライター大橋ちっぽけの時間だ。サポートには、坂本遥(Gt)、是永亮祐(Ba)、大樋祐大(Key)、中島瑞貴(Dr)という、それぞれに豊富なバンド経験を持つメンバーを伴ってステージに登場すると、「ルビー」からライブがはじまった。軽やかなバンドサウンドにのせ、大橋はアコースティックギターを掻き鳴らしながら、清涼感のある歌声で瑞々しいメロディを紡いでいく。濁りのないエレクトロポップにのせて幸せの意味を問いかける「幸せについて」、陽性のエネルギーをまとったインディーロック「Trust me」。オーセンティックなバンドサウンドだけでなく、現行のR&Bやヒップホップの要素も大胆に取り入れた多彩なアプローチを聴かせるが、どれだけサウンドの幅が広がろうとも、その音楽の真ん中には「大橋ちっぽけ」という軸が真っすぐに通っていた。〈どうして君のことを想うと 唇から歌が溢れるんだろう?〉と歌い出したファンキーなポップソング「常緑」も、溢れんばかりの愛しさを湛えて踊る「一旦キスする」も、「好き」という二文字では零れ落ちてしまうような名もなき感情を、大橋の歌はつぶさに捕らえる。
中盤、弾き語りで届けた「だれも知らない」は名演だった。フォーキーなメロディにのせて独白するのは、生きるうえで素通りすることのできない痛み。どこか心許なげで、でも熱く心を揺さぶるその歌は、決して傷は癒さないし、問題も解決しない。当然、代わりに戦ってくれるわけでもないけれど、自分以外の誰かもまた同じような痛みを知っていることそのものが意味だった。ポップミュージックとは、歌とはきっと、人を孤独にさせないために存在することを、その23歳のシンガーソングライターは本能的に知っているのだろう。
再びメンバーをステージに呼び込み、「やー楽しいなあ。ライブは楽しい場だなと感じています」と感慨を滲ませると、いよいよライブはクライマックスへ向かった。スタイリッシュな音像にファルセット交じりのボーカルで軽やかに韻を転がした「Hard to Tell」、晴れやかにリスナーの心とつながってゆく「アイラブユーにはアイラブユー」に続き、最後はすべての人生を祝福するような「主人公」をひときわ力強く歌い上げて終演。灰色だった日々をカラフルに塗り替えるようなポジティブなステージにフロアからは惜しみない拍手が送られた。
なお、この日のイベントのタイトル「BOOK」とは、ふと入った本屋で素敵な本に出会ったときのような、そんな出会いの「ときめき」を音楽でも体験してほしい、という主催者の想いが込められているという。会場に足を運んだ人のなかには、Mellow Youth目当てで来たら、大橋ちっぽけに心を射貫かれた人がいるかもしれないし、その逆もあるだろう。ジャンル云々関係なく、そういう音楽の出会いをできる場所が、個人的には大好きだ。
写真:こちろう
01. Rouge&Memory
02. PEARL
03. Run
04. Actor's
05. Flash night
06. MID LINE
07. Odor
08. Muzzle
■大橋ちっぽけ
01. ルビー
02. 幸せについて
03. Trust Me
04. 常緑
05. 一旦キスする
06. By Your Side
07. だれも知らない
08. Hard to Tell
09. アイラブユーにはアイラブユー
10. 主人公
東京・Spotify O-WEST
出演:大橋ちっぽけ、YAJICO GIRL、他
2/8(火)18:00~2/17(木)23:59
※お1人様2枚まで
※先着順のため予定枚数に達し次第受付終了
先行先着受付はこちら
@MellowYouth
@mellowyouth.official
Official YouTube Channel
大橋ちっぽけ オフィシャルサイト
@chippokeuta
@chippokeuta
Official YouTube Channel
先に登場したのは、ツインボーカルとツインギターを擁する5人組ロックバンド、Mellow Youthだった。伊佐奨(Vo/Gt)、木立伎人(Gt)、肥田野剛士(Ba)、阿部優樹(Dr)という楽器隊が、まずは軽くセッションするように音を鳴らすなか、最後にボーカルの石森龍乃介がステージに現れた。1曲目は渋いグルーヴが心地好くフロアを揺らした人気曲「Rouge & Memory」。ソウル、ファンクをはじめ、70年代あたりの日本の歌謡曲のエッセンスも感じる独特のサウンドにのせる石森のボーカルには、ダンディーな色気があった。彷彿とさせるボーカリストで言うと、田島貴男(オリジナル・ラブ)や岡村靖幸あたりだろうか。全員が1997~1998年生まれの若いバンドでありながら、会場を包み込むアダルトで上品なムードは、まさに「Mellow Youth」(円熟と若さ)というバンド名の意味そのままだ。
ミラーボールが回るなか、肥田野のベースがクールに跳ねた90年代の匂いがするシティポップ「PEARL」から、ロックテイストの「Run」、艶やかなサウンドで誘惑するソウルバラード「Actor's」へ。前半は、曲の終わりと始まりをノンストップにつないだ。石森が紡ぐ湿り気のある歌に導かれるように、バンドが熱を帯び、伸びやかな抑揚を描いたアーバンなAORテイスト「MID LINE」は素晴らしかった。彼らの音楽性をひとことで言うならば、「現代版シティッポップ」と括られるのだろうが、5人の個性が、歪に、美しく交ざり合って繰り出されるステージには、そんな言葉だけでは語り切れない独特の空気がある。「ちょっと息切れが止まらない(笑)」と呼吸を整えた石森が「これからもMellow Youthは走り続けます」と意気込みを伝え、「Odor」へ。ゴージャスでダンサブルなサウンドで描かれる、みだらで一途な夜の物語。最後の瞬間までMellow Youthは圧倒的にオリジナルだった。
後半は、シンガーソングライター大橋ちっぽけの時間だ。サポートには、坂本遥(Gt)、是永亮祐(Ba)、大樋祐大(Key)、中島瑞貴(Dr)という、それぞれに豊富なバンド経験を持つメンバーを伴ってステージに登場すると、「ルビー」からライブがはじまった。軽やかなバンドサウンドにのせ、大橋はアコースティックギターを掻き鳴らしながら、清涼感のある歌声で瑞々しいメロディを紡いでいく。濁りのないエレクトロポップにのせて幸せの意味を問いかける「幸せについて」、陽性のエネルギーをまとったインディーロック「Trust me」。オーセンティックなバンドサウンドだけでなく、現行のR&Bやヒップホップの要素も大胆に取り入れた多彩なアプローチを聴かせるが、どれだけサウンドの幅が広がろうとも、その音楽の真ん中には「大橋ちっぽけ」という軸が真っすぐに通っていた。〈どうして君のことを想うと 唇から歌が溢れるんだろう?〉と歌い出したファンキーなポップソング「常緑」も、溢れんばかりの愛しさを湛えて踊る「一旦キスする」も、「好き」という二文字では零れ落ちてしまうような名もなき感情を、大橋の歌はつぶさに捕らえる。
中盤、弾き語りで届けた「だれも知らない」は名演だった。フォーキーなメロディにのせて独白するのは、生きるうえで素通りすることのできない痛み。どこか心許なげで、でも熱く心を揺さぶるその歌は、決して傷は癒さないし、問題も解決しない。当然、代わりに戦ってくれるわけでもないけれど、自分以外の誰かもまた同じような痛みを知っていることそのものが意味だった。ポップミュージックとは、歌とはきっと、人を孤独にさせないために存在することを、その23歳のシンガーソングライターは本能的に知っているのだろう。
再びメンバーをステージに呼び込み、「やー楽しいなあ。ライブは楽しい場だなと感じています」と感慨を滲ませると、いよいよライブはクライマックスへ向かった。スタイリッシュな音像にファルセット交じりのボーカルで軽やかに韻を転がした「Hard to Tell」、晴れやかにリスナーの心とつながってゆく「アイラブユーにはアイラブユー」に続き、最後はすべての人生を祝福するような「主人公」をひときわ力強く歌い上げて終演。灰色だった日々をカラフルに塗り替えるようなポジティブなステージにフロアからは惜しみない拍手が送られた。
なお、この日のイベントのタイトル「BOOK」とは、ふと入った本屋で素敵な本に出会ったときのような、そんな出会いの「ときめき」を音楽でも体験してほしい、という主催者の想いが込められているという。会場に足を運んだ人のなかには、Mellow Youth目当てで来たら、大橋ちっぽけに心を射貫かれた人がいるかもしれないし、その逆もあるだろう。ジャンル云々関係なく、そういう音楽の出会いをできる場所が、個人的には大好きだ。
写真:こちろう
「BOOK -CALM-」2022年2月4日(金)渋谷WWW SET LIST
■Melllow Youth01. Rouge&Memory
02. PEARL
03. Run
04. Actor's
05. Flash night
06. MID LINE
07. Odor
08. Muzzle
■大橋ちっぽけ
01. ルビー
02. 幸せについて
03. Trust Me
04. 常緑
05. 一旦キスする
06. By Your Side
07. だれも知らない
08. Hard to Tell
09. アイラブユーにはアイラブユー
10. 主人公
LIVE INFORMATION
BOOK -GIFT-
3月25日(金)東京・Spotify O-WEST
出演:大橋ちっぽけ、YAJICO GIRL、他
2/8(火)18:00~2/17(木)23:59
※お1人様2枚まで
※先着順のため予定枚数に達し次第受付終了
先行先着受付はこちら
LINK
Mellow Youth オフィシャルサイト@MellowYouth
@mellowyouth.official
Official YouTube Channel
大橋ちっぽけ オフィシャルサイト
@chippokeuta
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