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2026.03.25

The fin.、自由で親密な空間を作り上げた「Somewhere Between Tour 2026」

The fin.、自由で親密な空間を作り上げた「Somewhere Between Tour 2026」

3月19日、The fin.が「Somewhere Between Tour 2026」の東京公演を恵比寿LIQUIDROOMで開催した。

2021年に発表した『Outer Ego』が20代の集大成となり、その後は新たなフェイズに突入したThe fin.。Yuto Uchinoはリスナーとしてこれまであまり聴いてこなかった1960〜1970年代のジャズやソウルへと傾倒し、シンセポップ的なサウンド感を引き継ぎつつも、ピアノやサックスの生音を生かして、「移ろい」を描くアルバム『Somewhere Between』に結実させた。

この作品に至るまで、YutoとベースのKaoru Nakazawaは、サックスと鍵盤を担当するHinata Ishiiをサポートに迎え、3人編成でのライブを展開。その経験を踏まえ、ギターのKazuya Takenouchiと、ドラムのTomo Carterを加えた昨年のフルバンド編成でのUKツアーからは、同期を使わず、クリックも聴かない、バンドらしい演奏スタイルへと移行。そのまま同じメンバーでUSツアーも敢行した成果が、この日のライブからははっきりと伝わってきた。

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1曲目の「Illumination」はこれまでのThe fin.のシグネチャーであるシンセサウンドが軸だが、シンプルな短音の反復フレーズも同期に頼らず全て手弾きすることで生のグルーヴが生まれ、NakazawaとTomoの堅実なリズム隊がそれを支えている。2曲目の「Pale Blue」はピアノとサックスをフィーチャーしたアレンジに生まれ変わり、現在のThe fin.のモードを示していた。

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2014年のデビュー作『Glowing Red On The Shore』の収録曲であるロックなテイストの「Misty Forest」が演奏されたのは、まだ同期を取り入れる前の感覚を呼び戻すかのようで、「1、2、3、4!」というYutoのカウントから始まる曲が多いのも実にバンドらしい。「Spiral」ではTakenouchiの艶のあるギターソロをフィーチャーしたりと、メンバーそれぞれの見せ場も設けられていて、生演奏の喜びが伝わってくる。コロナ禍にDTMで曲を作るアーティストが増え、その曲をライブで再現するために同期を用いるケースも増えたが、そこからさらに2〜3年が経過して、もう一度生身のグルーヴを見直すアーティストも多く、そんな流れとのリンクも感じられた。

Yutoによるピアノの弾き語りにサックスとドラムが寄り添う「Somewhere Between」以降も、過去曲が現在の編成で再解釈して鳴らされ、途中で4つ打ちに変化する「Melt Into the Blue」や、ループするリズムが没入感を生む「Sapphire」も素晴らしい。そんな中、ライブ中盤で披露されたのは、Yutoが「昔からずっと好きで聴いてる」というチェット・ベイカーのカバー「Time After Time」。この曲ではIshiiがピアノ弾き、Yutoが優美なメロディーをしっとりと歌い上げて、まさにジャズスタンダードのような雰囲気を作り上げた。

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Ishiiは近年活躍の目覚ましいピアニストの梅井美咲と高校の同級生で、在学中に結成したバンドで「BLUE GIANT NIGHTS」のオーディションに合格し、BLUE NOTE TOKYOのステージに立つなど、まだ20代半ばにして経験豊かな俊英であり、彼との出会いが近年のYutoの趣向を後押ししたことは間違いない。開演前のSEでは、Yutoが一時期飛行機でずっと聴いていたというアース・ウィンド&ファイアをはじめ、ビージーズ、ビリー・ポールなどの往年の名曲がかかり、こうした楽曲をインスピレーション源に、20〜30代のメンバーが今の目線で表現と向き合う、そんな現在のバンド像を象徴するのが「Time After Time」のカバーだったと言えるだろう。

「小学生の頃、家に帰ってるときの記憶をインスピレーション源にしてできた曲。当時あった名前のついてない感情、自分がピュアに世界と対峙してたときの感覚を素直に出そうと思って作った」と話して披露され、ノスタルジックなムードを生んだ「Home」からのライブ後半では『Somewhere Between』からの曲を並べて、The fin.の最新のモードを提示していく。

Nakazawaのタイトなベースがリズムを引き締め、その上でIshiiのサックスが自由に泳ぐ「Towards the Sun」、「2ヶ月くらい頭から離れなくなって、ほぼ頭の中でできた曲」という軽快なAOR風の「Nebula」、ダンサブルなビートに乗せてハミングをする「Thirst of Life」と、どの曲も素晴らしい。Yuto自身はアルバムについて、「自分的にはこのアルバムはビギナー目線で作っていて、まだスタートポイントなんです」と語っているが、これまでの経験値を持った上で、新たな音楽との出会いから得た興奮をフレッシュにアウトプットしたがゆえのポップさを纏った『Somewhere Between』の楽曲からは、確かなブレイクスルーが感じられる。

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ライブ終盤に届けられた名曲「Night Time」もこれまで以上の躍動感を獲得し、「Deepest Ocean」では長尺のアウトロでTakenouchiがサイケなギターソロを響かせ、ラストに「Alone in the Sky」の広がりのあるサウンドスケープが鳴らされると、日本以外のアジア圏からも多くのオーディエンスが来ていたであろう、多国籍なフロアからは大きな歓声と拍手が贈られた。

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Yutoは『Somewhere Between』について、「常に『かつての自分』と『いまの自分』と『これからの自分』の間を移ろいながら、繋がり続けていくアルバム」と話している。深い海の底から抜け出して、太陽を目指してどこまでも浮上しながら、心と身体を徐々に解放して、時間と距離を超えていくような音楽体験。そんな感覚が確かに感じられる、自由で親密な空間がそこにあった。

文:金子厚武
撮影:Yoshiaki Miura

The fin."Somewhere Between" Japan Tour 2026 SETLIST



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