bonobos「.jp」──翳りを湛えつつ楽しげに、ささやかな仕合わせを噛み締める音楽

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2022.11.02

　繰り返し聴いていて思うのは、これほどまでに凄いバンドがなぜ解散しなければならないのかということ。そして、これほどのことができるバンドだからこそ、このメンバーでなければ解散という判断に至るのだろうな、ということだった。

bonobosは編成が安定しない時期が長かったバンドで、中心人物の蔡忠浩（ボーカル・ギター、作詞作曲）と森本夏子（ベース）を除くメンバーは入れ替わりが多かった。それが、2016年に田中佑司（キーボード）と小池龍平（ギター）、梅本浩亘（ドラムス）が加入してからは盤石の体制となり、直近のインタビューで森本と蔡が述べているように、「このメンバーが揃った最後の7年間はすごく充実していて、音楽的な悩みがなくなってきた」「このメンバーでステージに立つのは本当に嬉しくて、クリエイティブに関してはいいことしかなくて」という理想的な状況が出来上がる。本作『.jp』はその到達点と言っていいだろう。

2016年の『23区』や2017年の『FOLK CITY FOLK.ep』も凄まじく、初期によく比べられたフィッシュマンズの影はもうどこにもない、Hiatus Kaiyote的な超絶技巧とポップさの両立を別角度から成し遂げたような音楽になっていたが、本作に至ってはそういう強引な例えすら難しい境地に達している。例えば、「Super Adieu」の原型はSoundCloudにアップしたハウスの習作とのことだが、ハウスのBPMを引き継ぎつつもビート構成や音響は大幅に再構築され、全く別の印象が生まれている。どこかで会ったことのある馴染み深い姿をしているようにも見えるが、細部や所作は未知の仕上がりで、繰り返し接するほどに「これは凄い作品だぞ」という印象と謎、そして理解が深まっていく。これは、蔡の驚異的な作詞作曲力はもちろんのこと、このバンドならではの圧倒的な演奏表現力によるところが大きいだろう。森本の極太流麗レゲエベースと、ヨレない正確さと懐の広さを兼ね備えた梅本のドラムス、この二者が完璧に噛み合うことで生まれるグルーヴ表現は、物凄いコシとさっぱりした切れ味を両立する。これは他のメンバーの絡み方にも言えることで、このようなアンサンブルは、バンドの身の処し方にどことなく通じる部分があるようにも思われる。

　本作に通底するのは、翳りを湛えつつ楽しげな雰囲気である。歌詞を書き上がったタイミングで公開されたNetflix映画「Don't Look Up」がドンピシャだという「永久彗星短歌水」、生まれてこなかった魂がロケットに乗って宇宙の果てを目指す「おかえり矮星ちゃん」、希死念慮を抱えた男が雨や渋滞に巻き込まれて諦める「LEMONADE」。そのいずれにも、諦めがついたからこそ漂う気安さと、閉塞感があるからこそ内側で膨らむエネルギーが溢れているように見える。そしてその気分、うまくいかない状況の中でささやかな仕合わせを噛み締めるようなゴスペル感は、音楽的にそこまで近いわけでもないが、カーティス・メイフィールド『There's No Place Like America Today』の特別な雰囲気を想起させてくれたりもする。冒頭でも少し述べたが、メンバーを入れ替えながらも存続してきたbonobosが「解散」するということはつまり、このメンバーの得難さを深く実感し愛してもいるからでもあるのではないか。そうした想いのようなものが、声高に語られるのではなく、しかし濃厚に滲み伝わってくる。本当に素晴らしいアルバムだと思う。

文：s.h.i.

RELEASE INFORMATION

bonobos「.jp」
2022年11月2日（水）
Format：CD
Label：HIP LAND MUSIC
価格：\2,800（税込）
品番：RDCA-1073

Track：
1．永久彗星短歌水
2．Not LOVE
3．YES(Album Mix)
4．電波塔
5．Ghostin'
6．おかえり矮星ちゃん
7．KEDAMONO
8．Super Adieu
9．アルペジオ
10．LEMONADE

LIVE INFORMATION

bonobos LAST LIVE「bonobos.jp」

2023年3月3日（金）
大阪・心斎橋 BIG CAT
開場18:15／開演19:00

2023年3月5日（日）
東京・日比谷野外大音楽堂
開場16:00／開演17:00

＜チケット情報＞
FC『HOKAHOKA』抽選先行
受付期間 2022年11月01日（火）18:00～2022年11月06日（日）23:59まで
https://sp.bonobos.mobi/