SENSA

2022.02.08

サカナクション、コロナ禍を乗り越え新しいフェーズに突入した「SAKANAQUARIUM アダプト TOUR」最終公演

サカナクション、コロナ禍を乗り越え新しいフェーズに突入した「SAKANAQUARIUM アダプト TOUR」最終公演

 不穏と不安。まるで、コロナ禍の鬱屈した空気を表現したかのようなダーク・アンビエント風の轟音で響く中、サーチライトのように照明がスタンドを舐め回す。ステージ上に浮かび上がる5人のメンバー。そして深いエコー感に包まれたシューゲイザー的なサウンドをまとった「multiple exposure」へとなだれ込む......。
 かくして、サカナクションの壮絶なライヴが始まった。「SAKANAQUARIUM アダプト TOUR」と名付けられた約2年ぶりのツアー最終日、日本武道館4デイズの締めでもある。今回のツアーは彼らにとっても、ファンにとっても特別であることは間違いない。2年前の1月から始まった「SAKANAQUARIUM2020 "834.194 光"」は途中から延期と再延期を繰り返して結局中止を余儀なくされ、その後行われる予定だったいくつかのアリーナ公演も幻に終わった。今回は、昨年12月から仕切り直してようやく実現した14本。無事に完走したという感慨も混じりながら客席で固唾を飲んでいたファンも多かっただろう。

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 しかしながらそんな感慨に耽る間もないほど、前半はサカナクションらしい先鋭的なステージを展開していく。2曲目にいきなり未発表の新曲「キャラバン」を披露するが、メロウでグルーヴィ―な楽曲でありながら、ステージ両脇に置かれた巨大なビジョンには、少女がガラスの部屋に閉じ込められている様子が映し出される。演じるのは、女優の川床明日香。前半は、彼女がある種の狂言回しとなってステージが展開されていくのだ。強烈なディスコビートに彩られた「なんてったって春」から続く「スローモーション」では、アダプトタワーといわれる巨大なセットに彼女は傘を持って登場し、会場が大揺れして最初のピークとなった「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』」では、部屋の中で彼女がテレビを見ている様子が映し出される。まるで演劇を観ているかのような演出だが、サカナクションのエモーショナルな歌と演奏と絶妙にシンクロしていくのだ。

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 それにしても、ステージ上でのサカナクションは、かなり攻めの姿勢を感じさせてくれる。全体的にハードでエッジの効いたアレンジが際立っており、どの楽曲も前のめり気味。新曲「月の椀」から「ティーンエイジ」へと続くディープな感覚。テンポを落としながらもハードに展開する「壁」から「目が明く藍色」における混沌とした音世界。演劇的な演出とステージ上の5人による圧倒的なアンサンブルを、圧倒的な音圧によって体感させられるのだ。

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 そして、ここから一気にボルテージが上がる。いつの間にかセットの左上部に作られたDJブースにメンバー5人が立ち、インストの「DocumentaRy」を披露。会場がひび割れてしまうのではないかというほど、爆音の四つ打ちのビートが場内を支配していく。まるで大箱のクラブでハードコア・テクノを浴びているような気分になるが、これはコロナ禍において一気に影を潜めてしまったクラブ・カルチャーへのオマージュのようにも感じられる。ダンスフロアと化した武道館の光景を眺めつつノスタルジーに浸るのも束の間、このあたりからは冒頭の前衛性よりもバンドとしての一体感を押し出すことに自然とスライドしていく。いつしか再びステージに戻ったメンバーたちは、「ルーキー」、「プラトー」、「アルクアラウンド」と高いテンションのまま立て続けにアッパーなナンバーを繰り出し、「アイデンティティ」で最高潮に達するのだ。

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 しかし、そのテンションは下がることがなかった。数日前にリリースされたばかりの新曲「ショック!」ではMVにもなっているオンラインライブでの映像素材が投影されるが、そこに登場するのと同じ女性レポーターがステージにも現れ、ライヴと映像がコミカルにシンクロしていく。また、彼ら流の歌謡ロック「モス」におけるハードでロックでダンサブルな世界観が、会場中を包み込んでいき、さらにダンスビートを強調した「夜の踊り子」では舞踊家扮する踊り子を写したビジョンで大いに盛り上げ、「新宝島」では10人のチアガールが登場し一層ステージが華やかになり、猛烈なまでの祝祭感に包まれるように会場が一体となる。そのまま本編のラスト・ナンバー「忘れられないの」を豪快に歌い演奏し、狂熱のライヴにピリオドを打った。この流れはメジャー15周年を迎えるバンドとしての貫禄といってもいいだろう。

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 アンコールではデビュー当時の名曲「三日月サンセット」と「白波トップウォーター」を立て続けに披露し、古くからのファンを歓喜させた。ここで山口が今回のツアーに至る苦悩に満ちた経緯を話し、先にライヴで楽曲を披露してからアルバムを形作っていくという画期的な「アダプト=適応」というコンセプトについて語る。間違いなくコロナ禍という前代未聞の事態だからこそ生み出されたアイデアであり、それによってサカナクションとしても新しい扉を開けることになるのだろう。「長い歴史の中で、僕らはこの一瞬、この場所でつながっている」という言葉が心に沁みた。そして「ナイトフィッシングイズグッド」、新曲の「フレンドリー」を披露し、たっぷりと多幸感に満ちたまま壮大なライヴは幕を閉じたのである。

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 今回のツアーは、先鋭的なロック・バンドとして、そしてポップスターとしてのサカナクションの両面が不思議なほど混在し、共存したライヴだったといえるだろう。特に何曲か披露された新曲のポテンシャルはこれまでの代表曲と並ぶべき楽曲ばかりで、いやが上にも3月にリリースされるという新作への期待が募るばかり。全貌が見えるまではもう少し時間がかかるかもしれないが、それまではツアーの余韻に浸りながら待ちたいと思う。

文:栗本斉(音楽&旅ライター/選曲家)
写真:横山マサト


サカナクション「SAKANAQUARIUM アダプト TOUR」
2022年1月30日(日) 日本武道館公演 SET LIST
M01 multiple exposure
M02 キャラバン
M03 なんてったって春
M04 スローモーション
M05 『 バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
M06 月の椀
M07 ティーンエイジ
M08 壁
M09 目が明く藍色
M10 DocumentaRy
M11 ルーキー
M12 プラトー
M13 アルクアラウンド
M14 アイデンティティ
M15 ショック!
M16 モス
M17 夜の踊り子
M18 新宝島
M19 忘れられないの
EN01 三日月サンセット
EN02 白波トップウォーター
EN03 ナイトフィッシングイズグッド
EN04 フレンドリー


RELEASE INFORMATION

サカナクション Concept Album「アダプト」
2022年3月30日(水)
詳細はこちら


LINK
オフィシャルサイト
@sakanaction
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