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2025.11.26
明け方、東の空が藍からオレンジに染まっていく。まるで小さな浴槽に目一杯体を沈めた時みたいな轟音と目が眩むほどのハウリングを引き連れて。2024年9月に結成された4ピースバンド・稀による1stアルバムは、こんな光景を眼前に広げる「朝焼け」で始まりを告げる。
指と弦が擦れる音までを閉じ込めて、生々しく爪弾かれるアコースティックギターと、海の奥底で鯨が呼んでいるような雄大さを備えた空間系の音像。そして、呼吸ひとつを躊躇いながら、おずおずと足の踏み場を確かめていくHANNA(Gt,Vo)のたおやかな歌唱。こうした要素からはシューゲイザーやオルタナティブロックからの影響がはっきりと汲み取れるのだけれど、それ以上に彼らの作品には蕾が花開く刹那を、赤ちゃんの顔が綻ぶ瞬間を彷彿とさせる歓びと、両の手を強く結んだ祈りが横たわっているようだ。
それは本作で幾度も提示される、静寂から再起へ至る構成からも明らかで、4人が本作に「生まれたものが一番初めにされること、命名。」とコメントを添えている通りの、初めて世界に触れる誕生の瞬間が全9曲を通じて収められている。まず1度目のバースデイはアルバムの幕開けから4分44秒後、「朝焼け」のクライマックスだろうか。ファルセットと泣き枯らしたがごとき小さな声でリフレインされる〈朝焼けが見たい〉の1行は、CDプレイヤーのボタンを押し込むような音を起点としていることを加味すれば、白い吐息が立ち昇る美しい光景を見せたいという願望のみならず、この作品を契機に「もっと良い方角へと進みたい」という決意表明へ転化していく。つまり、この曲はバンドの産声そのものであり、〈この先でまた会おう 待ち合わせはしないでいてね 偶然でまた会おう この声を忘れてしまっても〉という約束で締め括られる「P.S.」──追伸へかかる書き出しなのだろう。
それを踏まえると、階段状に上昇していくゴスペルチックなコーラスワークを夏の疾走感に混ぜ込んだ「Yes,summer」の厳かなブロックといい、跳ね回るビートとご機嫌なギターが牽引する「気分」のフェードアウトから雪崩れこむ一幕といい、一度の無音を経て捧げられるリリックはいずれも稀のど真ん中を射抜くものばかりに思える。彼らは〈ああ、解けた夢 会えないならいらないわ 指を繋いで 体温を分けて 祈った、祈った、祈った〉(「Yes,summer」)と、〈日が沈んでまた明日 たまに立ち止まって振り返れば 君のことわかるかな 日が沈んでまた明日〉(「気分」)と、この世とあの世の境界線で、夢と現実のボーダーラインで、どう足掻いても分かり合えない虚しさと清らかな生命、愛おしい記憶をふわりと歌い上げているのだ。名前を付与することで存在が認知されるならば、稀はこのアルバムによって、見事に自らを定義してみせた。純真無垢な姿のまま、ドロドロと花鳥風月を紡ぎ出すバンドなのだと。
文・横堀つばさ

稀「命名」
2025年11月26日(水)
Format:Digital
Label:FRIENDSHIP.
Track:
1. 朝焼け
2. いのちのひかり
3. 優しい人
4. Yes,summer
5. 最近なんかブルー
6. モモ
7. 手渡すように
8. 気分
9. P.S.
試聴はこちら
西永福JAM
開場18:45/開演19:15
出演:
稀
晩年
Dead By Inches
teiichi
前売¥2,800/当日¥3,300/学割¥1,800
(+1Drink)
@_mare_0___
指と弦が擦れる音までを閉じ込めて、生々しく爪弾かれるアコースティックギターと、海の奥底で鯨が呼んでいるような雄大さを備えた空間系の音像。そして、呼吸ひとつを躊躇いながら、おずおずと足の踏み場を確かめていくHANNA(Gt,Vo)のたおやかな歌唱。こうした要素からはシューゲイザーやオルタナティブロックからの影響がはっきりと汲み取れるのだけれど、それ以上に彼らの作品には蕾が花開く刹那を、赤ちゃんの顔が綻ぶ瞬間を彷彿とさせる歓びと、両の手を強く結んだ祈りが横たわっているようだ。
それは本作で幾度も提示される、静寂から再起へ至る構成からも明らかで、4人が本作に「生まれたものが一番初めにされること、命名。」とコメントを添えている通りの、初めて世界に触れる誕生の瞬間が全9曲を通じて収められている。まず1度目のバースデイはアルバムの幕開けから4分44秒後、「朝焼け」のクライマックスだろうか。ファルセットと泣き枯らしたがごとき小さな声でリフレインされる〈朝焼けが見たい〉の1行は、CDプレイヤーのボタンを押し込むような音を起点としていることを加味すれば、白い吐息が立ち昇る美しい光景を見せたいという願望のみならず、この作品を契機に「もっと良い方角へと進みたい」という決意表明へ転化していく。つまり、この曲はバンドの産声そのものであり、〈この先でまた会おう 待ち合わせはしないでいてね 偶然でまた会おう この声を忘れてしまっても〉という約束で締め括られる「P.S.」──追伸へかかる書き出しなのだろう。
それを踏まえると、階段状に上昇していくゴスペルチックなコーラスワークを夏の疾走感に混ぜ込んだ「Yes,summer」の厳かなブロックといい、跳ね回るビートとご機嫌なギターが牽引する「気分」のフェードアウトから雪崩れこむ一幕といい、一度の無音を経て捧げられるリリックはいずれも稀のど真ん中を射抜くものばかりに思える。彼らは〈ああ、解けた夢 会えないならいらないわ 指を繋いで 体温を分けて 祈った、祈った、祈った〉(「Yes,summer」)と、〈日が沈んでまた明日 たまに立ち止まって振り返れば 君のことわかるかな 日が沈んでまた明日〉(「気分」)と、この世とあの世の境界線で、夢と現実のボーダーラインで、どう足掻いても分かり合えない虚しさと清らかな生命、愛おしい記憶をふわりと歌い上げているのだ。名前を付与することで存在が認知されるならば、稀はこのアルバムによって、見事に自らを定義してみせた。純真無垢な姿のまま、ドロドロと花鳥風月を紡ぎ出すバンドなのだと。
文・横堀つばさ
RELEASE INFORMATION

稀「命名」
2025年11月26日(水)
Format:Digital
Label:FRIENDSHIP.
Track:
1. 朝焼け
2. いのちのひかり
3. 優しい人
4. Yes,summer
5. 最近なんかブルー
6. モモ
7. 手渡すように
8. 気分
9. P.S.
試聴はこちら
LIVE INFORMATION
稀1st Album 『命名』 RELEASE PARTY supported by Proust
2025年12月5日(金)西永福JAM
開場18:45/開演19:15
出演:
稀
晩年
Dead By Inches
teiichi
前売¥2,800/当日¥3,300/学割¥1,800
(+1Drink)
LINK
@_mare_0___@_mare_0___




